【サッカー】16年ぶりJ1勝利の東京V・城福監督が試合前に選手へ伝えた言葉とは 共に戦うサポーターと作り上げた新たな歴史の一ページ

 サッカーで16年ぶりにJ1を舞台とする東京Vが、3日の湘南戦(レモンガススタジアム)に2-1で勝ち、2008年10月18日の大宮戦以来、5646日ぶりにJ1での勝利を挙げた。開幕6戦目で訪れた待望の瞬間。クラブ史に残る試合前、城福浩監督(63)はゴール裏のスタンドから偶然耳に入った言葉を選手に伝え、鼓舞していた。

 強い雨が降り続く平塚。選手のウオーミングアップが終わるころ、普段は試合前、ロッカールームからほとんど出てこない指揮官が珍しくピッチに姿を見せた。「たまたま外に出た」と何かに導かれるように足を動かすと、緑のレインコートを着たサポーターが集まるゴール裏から、拡声器に乗った声が耳に入った。

 「おそらく苦しい時間もある。失点もするかもしれない。そういう時こそ、自分たちがいるんだということをみんなに示そう」

 最後にJ1で勝利したのは5600日以上前。その間、J2降格、経営難によるクラブ存続危機などがあった。現在の所属選手、そして2022年6月から指揮を執る自身よりも、長く苦しい時期を過ごしてきたサポーターの言葉が胸に響いた。城福監督はロッカールームに戻った後、開幕5戦で勝利がなく、J1の壁にぶつかっていた選手たちにサポーターの思いを伝え、こう続けた。

 「サポーターが“J1で勝つ”っていうことがどれだけ大変か、一番よく分かっている。だからこそ、その5000何日ぶりという歴史をこのメンバーでつくるんだ」

 新たな歴史の一ページを作るべく、送り出されたイレブン。前半15分に失点するも、サポーターの声援を受けながら勝利を信じ、走り続けた。後半30分に同点、同41分に勝ち越して逆転勝利。決勝ゴールを決めたFW山見は一目散に、歓喜のゴール裏へ駆けつけた。「監督から『J1でここまで長い間勝利していないチームが過去にも今にもない。自分たちがその歴史をつくろう』と話があった」と振り返った通り、言葉を体現してみせた。

 開幕前「僕がやった1年半の時でも本当に苦しい時に背中を押してくれた。とにかく彼らを喜ばせてあげたいと思うし、彼らと一緒に喜び合いたい」と話していた城福監督にとっても、勝利後の光景は忘れられないものになった。「喜び合える、苦しかったね、というのをあの空間で共有できた」と振り返る。

 同時に「これからだ」という声も聞こえた。初代Jリーグ王者として輝きを見せた名門の復活へ-。あくまで再スタートの1勝だ。当時61歳だった指揮官が2度目のオファーを受けたときに宿した覚悟がある。

 「僕はもうプロの監督として、ゴール前ではないが第4コーナー。サッカー界に対して何の貢献をすべきかなと思った時に、やっぱりJリーグの価値を高めたい。そう考えた時に一番分かりやすいのは、ヴェルディが優勝争いのような形で復活すること。そこにまい進する」

 最終的な目標はサポーターが待つ1994年以来の優勝だ。緑の名門が再び日本を沸かせる日が来るまで。J1最年長監督が、平均年齢24・1歳の“新生ヴェルディ”を率いていく。(デイリースポーツ・松田和城)

 ◆城福 浩(じょうふく・ひろし)1961年3月21日、徳島県出身。現役時代は富士通サッカー部、エリースFCに所属。93年から富士通サッカー部のコーチ、監督を経て、99年から06年までFC東京の育成普及部長など選手育成に携わった。02年からアンダー世代の日本代表監督を務めた後、08年から10年までFC東京で指揮を執った。その後、甲府、広島でも監督を務め、12年には甲府をJ2優勝に導いた。22年6月に東京Vの監督に就任。23年には同クラブ16年ぶりとなるJ1昇格を果たした。愛称は「JFK」。

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