【スポーツ】パリで地元柔道女王アグベニェヌが狙う「ママでも金」 “先人”谷亮子さんからもエール
「ママでも金」。2005年に妊娠を公表した柔道女子の“YAWARAちゃん”こと谷亮子さんが、当時3連覇が懸かる08年北京五輪への挑戦を表明するにあたり口にした言葉が大きな話題になった。あれから約19年。今夏のパリ五輪では、地元フランスが誇る柔道五輪女王が「ママでも金」に挑戦する。
今年3月8日。「国際女性デー」に合わせて、柔道女子の日本代表とフランス代表による交流イベントが、都内のフランス大使館で開かれた。日本からは63キロ級で3度目の五輪に挑む高市未来(コマツ)らが参加。フランスも五輪代表メンバーが来日したが、ひときわオーラを放っていたのが、東京五輪同階級金メダリストのクラリス・アグベニェヌ(31)だった。
柔道人気の高いフランスの中でも、男子100キロ超級の五輪王者テディ・リネールと並ぶ絶対的な存在だ。21年までに世界選手権を5度制覇し、東京五輪で金メダルを獲得。22年6月には第一子となる女児を出産した。さらに、わずか11カ月後の23年5月の世界選手権で頂点に返り咲き、周囲の度肝を抜いた。
現在1歳の長女に授乳しながら、家族や周囲のサポートを得て競技に打ち込む。来日時も合宿に参加している時間は帯同した実母がホテルで子供の面倒を見ていたという。「さまざまな困難にぶつかっているが、母や夫のサポートで競技に集中できている。私は非常にラッキーな人間」と強調しつつ、自身の挑戦について「世界各国の女性が活躍するプログレス(進歩)のために頑張りたい」と使命感を明かした。
日本では谷さん以降、12年ロンドン五輪57キロ級金メダルの松本薫が、16年リオデジャネイロ五輪翌年の出産を経て現役を続行。「ママでも金」と名言を踏襲しながら東京五輪出場を目指したものの、国内争いに敗れて引退し、アイスクリーム屋に転身した。松本は託児所に預けながら練習に励んだが、出産を経て腹筋が落ちるなど、自身の体の大きな変化に戸惑っていた姿が印象に残る。
アグベニェヌも睡眠時間が削られるなど以前とは状況が異なるが「出産前の自分と比較しないことが大事」と強調。「自分では前と同じくらい強いと思っていても、出産後はどうしても体が変化する。新しい別の女性アスリートになったんだと認識することが大事」と心持ちを明かした。
今回の日仏交流会には特別ゲストとして谷亮子さん(48)の姿もあった。「田村で金、谷でも金」を掲げた04年アテネ五輪で2連覇を達成し「ママでも金」を宣言した北京五輪は頂点には届かなかったものの、銅メダルを獲得。また、07年にはママとして世界女王に輝いた先駆的レジェンドは「私の時は結婚、出産して続けることは難しかったかもしれないが、今は社会で受け入れられ競技に打ち込める。素晴らしいこと」と時代の変化に感慨を込めた。
当時は「ママでも金」のロールモデルはなく、谷さんも実母の協力を得ながら育児と競技の両立を試行錯誤していたという。「出産して柔道の世界に戻ってくるのは非常に大変なこと。私も身をもって(困難さを)経験してきたので、ぜひアグベニェヌ選手には新しい“ママでも金”をぜひ達成してほしい。きっと彼女ならできると思っています」とエールを送った。自国開催の祭典で、その挑戦自体が意義深いものとなる。(デイリースポーツ・藤川資野)
◆クラリス・アグベニェヌ 1992年10月25日、フランス出身。女子63キロ級の絶対的な存在で世界選手権は2014、17、18、19、21、23年と4連覇を含む6度制覇。16年リオデジャネイロ五輪は銀、21年東京五輪で金メダル。また、東京五輪団体戦決勝の日本戦では70キロ級金メダルの新井千鶴に一本勝ちし、金メダルに貢献。左組みで得意技は大外刈り、寝技。164センチ。