阪神がサヨナラ危機で満塁策を採らなかった理由 岡田監督「三振取れる方選べ」投手のメンタル優先、それを可能にする守備力
「DeNA1-1阪神」(23日、横浜スタジアム)
間違いなく勝負の場面だった。九回、ゲラが1死から牧&宮崎に連打を浴びて一、三塁のピンチを背負った。ここで内野は前進守備を敷いた。それを見た一塁走者が伊藤への初球に二塁を陥れた。
1死二、三塁と状況は変わり、ゲラは伊藤を空振り三振に仕留めた。2死二、三塁で打席には山本。この日は村上からタイムリーを放つなど2安打。七回のピンチでは敬遠で歩かせていた。今季の三振数は56打席でわずかに3つ。ここで阪神ベンチはどう考えたのか-。
近年のプロ野球では野手の守りやすさを優先し、満塁策を採ることがほとんどだ。そのメリットとしてボテボテの打球でもフォースプレーでアウトにできる確率は高くなる。
一方、リスクとして挙がるのは投手への負担。満塁となれば押し出しが視野に入ることで、制球を重視しなければならない。ゾーン内を狙うことで球威が落ちたところをはじき返される。ギリギリのコースを狙って判定に嫌われ、押し出しでサヨナラ負けするシーンは何度もあった。
安藤投手コーチは「あれはゲラと(坂本)誠志郎の選択。監督が『どっちでもいいから三振取れる方選べ』と。それで話し合って、山本勝負」とベンチ内のやり取りを明かした。その上で「嫌やでピッチャー、満塁策。あの場面で。満塁だったらプレッシャーかかるし、いくら状態いいとは言え、満塁は嫌だよピッチャーからしたら」と投手心理を説明した。
阪神ベンチはあくまでも投手優先で分岐点を考察した。ゲラの奪三振能力に全幅の信頼を寄せ、勝負を託した。右腕は「もちろんカウントによって次の(打者)っていうのは頭にあったけど、あのバッターでも三振取れる自信があったから」と言う。「自信もあったので対戦しただけです」と振り返った。
またベンチが満塁策をとらなかったのも、内野陣への全幅の信頼があるからだろう。例え当たり損ねの打球でも打者走者の山本をアウトにできる-。仮に俊足がウリでかつ左打者であれば展開は違ったかもしれないが、木浪、中野の二遊間コンビはレベルが高く、送球がそれたとしても大山がカバーできる。別の見方をすれば、鉄壁の内野陣がいるからこそ投手優先、ゲラに託すことができたとも言える。
最終的に追い込んでから3球ファウルで粘られながらも、ゲラはゾーンを広く使うことができたことをチャート表が物語っている。最後はアウトローのボール気味の変化球を当てられ、ボテボテのゴロが遊撃前へ転がったが、木浪が「引いたら負けなんで」と敢然と前進して一塁で間一髪アウトにして見せた。
ディフェンス面において、投手と野手陣の信頼関係がにじみ出たような勝負の結末。以降、阪神は九回から4イニング連続でサヨナラのピンチを凌ぎきってのドローに持ち込んだ。負けない野球が凝縮された分岐点。前年日本一チームの力が示されたようなシーンだった。(デイリースポーツ阪神取材班)