【スポーツ】異例のブーイングも 8年ぶり「旗判定」復活の柔道全日本選手権 原点回帰で好勝負連発の一方で不明瞭さ拭えず

 旗判定で決着がつき、全日本選手権初優勝で天を仰ぐ中野寛太(手前)と敗れて晴れ晴れしい表情の原沢久喜=4月29日
 旗判定により、決勝で中野寛太に敗れた原沢久喜(右端)=4月29日
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 4月29日、体重無差別で柔道日本一を争う伝統の全日本選手権で「旗判定」が8年ぶりに復活した。国際ルールに合わせる形で2017年大会から導入していたゴールデンスコア方式の延長戦が再び廃止となり、試合時間5分(決勝は8分)で決着がつかない場合は3人の審判が必ず優劣を判断。前半から積極的に技を出し合うスピーディーな展開が多くなった一方、判定には一定の不明瞭さを拭えず、異例のブーイングも生じるなど、課題も入り交じった。

 4月29日の日本武道館。日本柔道最高峰の舞台で、決勝は中野寛太(23)=旭化成=と五輪2大会連続出場の原沢久喜(31)=長府工産=が死力を尽くし合った末、判定2-1で中野が競り勝ち“未完の大器”がようやく初の栄冠に輝いた。

 同21日に横浜武道館で行われた全日本女子選手権も同様のルールで実施され、結婚を経た瀬川麻優(26)=ALSOK=が初制覇。8年ぶりに復活した「旗判定」も勝敗を分けたが、金野潤強化委員長は「エキサイティングして見られた」と感想を述べつつ、ルール未定の来年度以降に向けて「どのルールもメリットとデメリットがある。今回のルールを経て、どのように進化させるか、あるいは戻すのか、いろんな方のご意見をうかがいたい」と慎重に語った。

 全柔連と講道館が共催する全日本選手権は、国際柔道連盟(IJF)が廃止した「有効」を残すなど独自のルールで行っているが、今回の旗判定復活の背景には、攻撃的な柔道を志向するはずのIJFルールの運用における“形骸化”や長時間化を避ける狙いがあったように見える。

 現IJFルールでは指導差では決着がつかないため技のポイントを狙う好勝負が増えた一方、指導累積3つによる相手の反則負けを狙う戦い方も定石として定着している。試合後半、組み際の浅い技の手数で畳み掛け、組む機会をつぶす“塩試合”もある。また、日本国内では審判が指導を出すタイミングが遅く、組み手や防御のうまい選手が多いことから延長戦が頻発し、10分を超えるような試合も珍しくなかった。

 旗判定復活に際し、大迫明伸審判長は「真の柔道本来の魅力を伝えるにはどういうルールにすべきかを考えた」と説明。技の手数よりも有効性を評価し、指導累積数にかかわらず、より攻撃的な柔道をした選手が優勢となる方針を示し「決められた時間で必ず優劣を決定し、時間内での攻撃を高く評価するとハッキリと打ち出す」と原点回帰を強調した。

 最近は国内外を問わず掛け逃げスレスレの“手数勝負”も散見されるだけに、一定の説得力のある方針だった。また、体重無差別で行われる伝統の大会とあって、小兵が大きい選手に勝つには「旗判定」のない近年は過酷だった。

 今大会では狙い通り、5分の時間内で積極的に技を仕掛ける好勝負が多かった。一方で、旗判定が内包する不明瞭さも拭いきれなかった印象だ。好勝負ゆえに3人の審判の判定が割れる「2-1」での決着も頻発。特に100キロ超級元日本代表の小川雄勢(パーク24)と81キロ級の佐藤佑治郎(山形県警)の試合では、小兵の佐藤が攻め続けて担ぎ技で浮かせる場面もあったが、判定2-1で小川の勝利。不明瞭な結果に会場からは異例のブーイングが起こった。

 また、今大会は何と言ってもパリ五輪代表や世界選手権代表が出ないという寂しさがあった。国際大会のカレンダーとの兼ね合いや、普段はIJFルールに合わせて戦っているトップ選手が国内独自ルールで戦うという強化面でのジレンマも課題として残る。

 今回のルール改正により、延長戦を気にせず技を仕掛け合うというダイナミックさも久々に見られて新鮮だった。今後も柔道本来の面白さ、すごみ、強さを体現する大会であり続けるためのルールを模索してほしい。(デイリースポーツ・藤川資野)

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