【サッカー】ACL準Vの横浜M 元日本代表MF水沼貴史氏「僕は超えられたと思っている」 長男・宏太への思いとは?

 今季のサッカー、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で準優勝を果たしたJ1横浜M。34年前に前身の大会でアジア制覇を目指した戦いを経験し、黄金時代の日産自動車(当時)で主力を担った一人が元日本代表MF水沼貴史氏(64)だ。水沼氏が当時を振り返りながら、今大会での横浜Mの快進撃や、同チームに所属する長男のMF水沼宏太(34)についての思いを語った。

 アジア王者まであと一歩と迫った横浜M。越えられなかったベスト16の壁を打ち破っての決勝進出はクラブ史上初の快挙だった。OBの水沼氏は「これまで跳ね返されてきた壁を破って一気に上まで来た。シーズンをまたいだ戦いでチームも監督も変わって、だからこその価値がある」と後輩たちの健闘をたたえた。

 34年前も横浜M(当時日産自動車)はアジア王者に迫ったことがある。ACLの前身となる90年のアジアクラブ選手権。決勝で遼寧(中国)に敗れ、優勝を逃した。ただ、取り巻く環境は今とは全く違っていたという。

 当時はリーグ戦の最中に進められる大会に、出場を辞退するチームもあった。黄金期の日産でも「モチベーション自体も今ほどなかった。ステータスとしてアジア王者が付けばいいよね…という感じだった」と振り返る。

 最も違うのは世界への道。クラブ単位でアジアから世界へ続く道は無く「そこに何かを見いだすのは難しかった」という。現在のACLの先にはクラブW杯があり、その価値は大きく変化した。

 だが、戦いの難しさは変わらない。「雰囲気が日本とは全く違う。暑さなどの環境もジャッジも。だから難しい」。それを知るからこそ惜しみない称賛を送り、長男の宏太のプレーも含め「いろんな思いが集約された。OBとしても父親としてもね」と話した。

 決勝では出場がなかった宏太だが、父はそのキャリアに「すごいなと。僕は超えられたと思っている」という。「彼もアジアでは修羅場をくぐっている。U-17代表や(U-21で臨んだ)アジア大会では優勝もした。今回のACLでも、アジアの戦いを知っているからこそやれていると思う」と評価する。

 平たんな道を歩んできたキャリアではない。横浜Mでユースからトップチームに昇格も、結果を残せずJ2栃木(当時)を皮切りに複数のクラブを渡り歩き、結果を積み重ねた。そしてJ1優勝を果たした横浜Mからオファーを受け、10年ぶりに古巣へ復帰を果たした。

 そんな姿を見守ってきた水沼氏は「ものすごい努力している。いろんな壁やメンタル的に苦しい時を乗り越えてきた」。そして何より「周りからの愛され方が違う。人として認められていると思うし、彼に比べたら僕の若い時は全然(笑)」。そう語るまなざしに、喜びの色がにじんだ。

 「僕はワンクラブマンにこだわった」と水沼氏。そのクラブへの誇りは同じく生え抜きの主将・喜田、複数クラブを渡り歩いて憧れの場所に復帰した宏太に限らず、新加入の選手に至るまで浸透している。横浜Mは他の伝統あるクラブと比べても、そうした空気感が強い希有(けう)な存在だ。

 「うれしいよね。根底にあるものは絶対に変わってはいけない。それを選手が振る舞いで見せているから、新しい選手も受け入れられる。それがクラブのDNAだと」。なればこそ「世界的にも有名な横浜の街にマリノスがあることを知ってもらいたい」と強く願うのだろう。トリコロールが世界へ羽ばたく時を心待ちに、レジェンドは次の挑戦を見守り続ける。(デイリースポーツ・中田康博)

 ◆水沼貴史(みずぬま・たかし)1960年5月28日、浦和市(現さいたま市)出身。浦和市立南高(現さいたま市立浦和南高)から法大へ進学。79年にU-20日本代表としてワールドユースに出場した。83年に日本リーグ(JSL)1部の日産自動車(現横浜M)に加入。2年連続国内3冠に貢献するなど主力として活躍。95年に現役を引退した。JSL通算161試合33得点。Jリーグ通算42試合5得点。日本代表通算32試合7得点。引退後はサッカー解説者として活動。06年に横浜Mコーチ、同年8月に岡田武史監督の辞任を受けて監督に就任。07年はコーチへ戻り同年退任。08年から法大コーチを務めた。173センチ、65キロ。

 ◆水沼宏太(みずぬま・こうた)1990年2月22日、横浜市出身。横浜Mのユースチームを経て、08年にトップチーム昇格。10年7月の栃木(当時J2)への期限付き移籍を皮切りに鳥栖、FC東京、C大阪でプレーし、20年に横浜Mへ10年ぶりに復帰した。22年はリーグ戦31試合出場7得点で2年ぶり優勝に貢献した。日本代表ではU-17代表として07年のU-17W杯に出場。10年にはU-21代表でアジア大会優勝に貢献。22年7月の東アジアE-1選手権でA代表デビューも果たした。176センチ、72キロ。

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