【野球】23年連続勝利のヤクルト・石川が愛される理由 今も胸にある古田敦也氏の言葉
球界最年長のヤクルト・石川雅規投手(44)が2日の楽天戦に先発し、5回4安打無失点で待望の今季初勝利。新人から23年連続勝利はプロ野球史上初の記録で、目指す200勝まで残り「14」とした。大記録に挑むベテランの強さに隠された武器とは。“愛され力”の秘密に迫り、ルーキーイヤーまでさかのぼり、ひもといていく。
目尻のシワが少しだけ色濃くなり、白髪も徐々に増えた。厳しいプロの世界に飛び込み戦い続けた年月も23年になった。球界最年長、今年1月で44歳。石川はまた一つ「特別な」白星を重ねた。
順風満帆な船出ではなかった。幾度となく雨天中止の影響を受けて、開幕ローテ入りを果たしながらも初先発は4月16日。5回無失点だった自身の開幕戦は援護がなく、5回2失点だった2戦目は、降板後に逆転負け。3試合目となった5月19日の阪神戦では、3回4失点(自責2)で今季初黒星。「バロメーター」と語るゴロアウトが1つも奪えず、「本当に情けない」と唇をかんだ。
立ち返ったのは原点だった。投球映像をすぐに振り返り、シンカーの落ち具合もデータで確認した。「球は遅いけど、真っすぐをしっかり投げなきゃなっていうことです」。球速150キロが当たり前になりつつある世界の中で懸命に戦い、生まれた自負、矜持(きょうじ)。「戻るも何も基本は真っすぐだよね」と言い聞かせた。
誰からも愛されてきた選手だ。時間の許す限りファンの声援に感謝し、ペンを走らせた。2軍での調整登板では、親子ほど年の離れたドラフト4位・鈴木(常葉大菊川高)と26歳差バッテリーも組んだ。「頑張ってみようぜ」と声をかけ、首を振った回数はわずかに1回。引っ張るのではなく、共に歩いていけるように。後輩たちの力を最大限に伸ばし、信じた。
愛される理由がある。22年前の02年。入団して迎えた2月のキャンプで、古田敦也氏から声をかけられた。「敵を作るな」。その言葉はベテランになった今でも脳裏に焼き付いている。行動が変わったわけではない。だが「伝え方一つとっても(受け取り方は)変わるじゃないですか。だから気をつけるようにしています」と表情を緩めた。
長い年月を超えて、今その言葉はドラフト1位・西舘(専大)に伝えられた。受け継がれていく思い、生きざまがある。「やっぱり愛される選手になってほしいから。みんなに頑張れ、頑張れって後押ししてもらえるように」。167センチの大投手。努力の中に見える愛され力も武器の一つ。石川の“強さ”の理由だ。(デイリースポーツ・松井美里)