【野球】ヤクルト・小川 帰ってきたエースを支えるものとは 原動力になった心揺さぶられた再会
ヤクルトの小川泰弘投手(34)が、5日の西武戦で6回1/3を5安打2失点と踏ん張って今季2勝目を挙げた。開幕こそ出遅れたが、帰ってきたエースを支えるものとは-。今オフに涙するほど、心揺さぶられた祖母・伊藤まち子さん(90)との再会が原動力になった。
寂しがる姿に背を向け、一人になった小川は涙が止まらなかった。
今年1月。2時間ほどかけて、家族と愛知県北設楽郡東栄町を訪れた。母方の実家がある“故郷”は、正月、お盆など川や山で日が暮れるまで遊んだ思い出がたくさん詰まった場所でもある。目的地は、施設で暮らす祖母・まち子さんだった。
「3年会ってないかな…いや、もっと会っていないかも。5、6年会っていなかったのかもしれない」。記憶も定かではない。それほど久しぶりの再会だった。
高齢ということもあり、日常の生活は車椅子。耳も遠くなった。だが、忘れるわけがなかった。小川自身が「思い出をくれた人」と呼ぶおばあちゃん。「ちゃんと覚えていてくれてうれしかった。別れ際には『もう帰っちゃうの?』みたいな。つまんないなって、すごく寂しい顔をしていた」。涙がこみ上げる祖母に、自然と思いは募った。
1カ月後、決意を胸にキャンプイン。だが、順調に調整を続けていた中で3月上旬にある決断を下した。「無理をしたらできる。でもシーズンに入ったら迷惑がかかってしまう」と覚悟を決め、上半身のコンディション不良を訴えて離脱した。目先の悔しさよりも、中長期を見据えて戻ってからの状態を優先させた。
葛藤やもどかしさを懸命に抑えながら、小川は連日行われている1軍戦に見入った。睡眠時間を削ってでも、目に焼き付けたのは戻りたい場所だ。気持ちは離れないし、絶対に離さない。「長い野球人生と捉えて、これは必要な時間」と言い聞かせながら、思い出したのは祖母との約束だ。
「『頑張れ』って何回も言ってくれた。活躍を楽しみにしてくれていると思うし、見てくれているんじゃないかな」
帰り際には、施設で暮らす“ご近所さんたち”とも順番に写真を撮った。小川家にまた一つ加わった、大切な思い出がある。出遅れた分を取り返すだけではない、エースとして見せたい姿、意地がある。原動力が増えた。(デイリースポーツ・松井美里)