【野球】サッカー王国に誕生した極貧球団・くふうハヤテの現在地 ジャイアントキリングの精神も 「ないものづくし」に経営苦悩

 静岡県に初めてプロ野球の球団が誕生した。「くふうハヤテベンチャーズ静岡」。ファームリーグ拡大に伴う形だが、球団増は現在の12球団制となった1958年以来、66年ぶり。昨年11月のオーナー会議でオイシックス新潟アルビレックスBCとともに新規参入が正式承認されて約半年が経過した。母体がないまさに“ゼロからのスタート”を切った新球団の経営、チーム運営の苦労など現在地を追った。

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 5月末の日曜日、静岡県のJR清水駅。構内には、J2清水エスパルスのユニホームを着たファンが多く目についた。今も昔も“サッカー王国”。この静岡の地に誕生したプロ野球球団が「くふうハヤテ」だ。戦う舞台は1軍ではなくセ・パのファーム。同じく2軍に新規参入した「オイシックス新潟」は独立リーグの球団が母体だが、それもない、くふうハヤテはまさにゼロからのスタートとなった。

 球団を経営する上で重要となるのは資金面、つまりスポンサー探しだ。池田省吾球団社長(49)は語る。「まず県内の企業に応援していただきたいじゃないですか。NPBのファームというとなかなかなじみがない。1軍と比べるとどうなんだ、そうすると(評価も)落ちる。そこがまた難しいです」。特に静岡県には清水、磐田、藤枝、沼津と同県を本拠地とするJリーグ4クラブが存在。「それぞれスポンサーを探しています」と競合するケースがあり、難航したという。

 それでも生活関連サービスを展開する「くふうカンパニー」が、球団の命名権を取得するなど徐々に軌道に乗り始めた。ただ初年度は「初期投資が多いので赤字。(黒字は)3年から5年(後)だと思います」と池田社長。独立リーグの四国ILp・香川の球団代表を務めた経験がある池田社長によると、新球団の年間運営資金は「(独立リーグの球団が)1億円ぐらいで、5倍から10倍はすると思ってやっています」。本拠地の年間総観客動員数は「5万人」を目標としているという。

 セ・パ12球団のような潤沢な資金があるわけではない中、用具や設備などの初期投資も不可欠だった。「ボール1個もない状況だった」と池田社長。巨人、広島などでコーチを歴任してきた内田順三打撃アドバイザーは「ボールもマシンもない。ないものづくしだった」とスタートしたばかりの当時を振り返る。道具や機材は球団が新たに購入してそろえた。

 出費がかさむだけに経費節減の必要があった。3月の名古屋遠征は業者に依頼して静岡からバスで往復約6時間の日帰りにし、宿泊の費用を浮かせた。5月にチームバスを数千万円で購入したが、宿泊先は低額のビジネスホテルで、一部ベテラン選手を除いて原則2人部屋だ。

 球団運営のやりくりには工夫も必要。チームバスを公式戦開催日にJR清水駅~本拠地「ちゅ~るスタジアム清水」までの無料シャトルバスとしても使用。選手が乗る移動用バスをファンに開放するのは日本球界では異例だが、これも潤沢な資金がない新球団ならではの発想だろう。打撃ケージが足りないためケージにスポンサーの看板を付けて資金を調達することも検討中だという。

 セ・パ12球団に比べ、整っているとは決して言えない環境面や待遇面。ただ、目指す到達点もまた違う。くふうハヤテには、12球団に選手を送り込むという大きな目標がある。池田社長は「全て整えようとは思ってないです。給料も含め、(メジャーの)1Aとか2Aとかマイナーリーグの考えです。早く上で夢をつかんでくれ、というチームだと思う」と強い力を込めて語る。(デイリースポーツ・伊藤玄門)

 ◆くふうハヤテ 正式名称は「くふうハヤテベンチャーズ静岡」で、運営会社はハヤテグループのハヤテ223。2024年1月にベンチャー企業の「くふうカンパニー」との資本提携により「くふうハヤテ」となる。本拠地はちゅ~るスタジアム清水(静岡市清水庵原球場)。いずれも静岡県出身で元横浜(現DeNA)監督の山下大輔氏がGMを務め、元近鉄で通算139セーブの赤堀元之監督が指揮を執る。

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