【野球】阪神 梅野隆太郎が見せたプロの技 暴投を追いかけず「スルーした」次善の処理で1死三塁が二塁に 敵地がざわついた好判断
「中日2-6阪神」(14日、バンテリンドーム)
勝敗を分けた価値ある好ジャッジだった。阪神・梅野隆太郎捕手が同点の八回無死一塁から見せた好判断。経験豊富な司令塔の冷静な対応がチームを同一カード3連敗阻止へ導いた。そう言っても過言ではないプレーだ。
場面は1-1の八回。1死から高橋周に左前打を浴びた。次打者・板山へ投じたカウント1ボールからの2球目、内角低めの変化球が大きくそれてワイルドピッチとなった。ボールはバックネットに当たって一塁側ベンチの方向へ転々。一塁走者の高橋周は一気に三塁を狙った。ボールを追いかける梅野はここである判断を下した。
「(走者が三塁まで)回るのは分かっていたから、やべえと思ったけど(ボールがベンチに)入るのを待った」
一塁ベンチに向かって転がるボールは追いつけないスピードではなかったが、あえて梅野は白球を見ながら後ろについた。「ワンベースやなと思って。あそこは止めにいかないで見送った。冷静に」。その判断通り、ボールはベンチへ飛び込んだ。この時点で高橋周は三塁に到達していたが、一塁塁審の西本審判員が二塁へ戻るようにジャッジした。
何が起こったか分からずどよめくスタンド。立浪監督もベンチを出て球審に確認を行った。その後、場内アナウンスで責任審判が「投球がデッドの箇所に入りましたので、投球当初からワンベース、走者二塁で再開します」と宣告した。
公認野球規則の5・06b4(H)に「1個の塁が与えられる場合-」として「打者に対する投手の投球、または投手板上から走者をアウトにしようと試みた送球(例として牽制球など)がスタンドまたはベンチに入った場合、球場のフェンスまたはバックストップを越えるか、抜けた場合。この際はボールデッドとなる」と記されている。
梅野は暴投によってボールデッドとなれば、1個の進塁しか与えられないルールを把握していた。その上でベンチに転がっていくボールを全力で追わずに見送った。仮に捕りに行っていたら「(三塁まで)行かれてました。追ったときに跳ねた方向がベンチだったのできついと思って」と梅野。「相手の距離を見てスルーした。ワンベースというのが頭にあったので。間に合っていたけど見送った」と明かした。
もちろんベンチのフェンスに当たって跳ね返ってくる可能性もないわけではなかった。それでも暴投でピンチが広がるのは確実となった中、三塁への進塁を防ぐにはどうしたらいいか-。きちんとルールを把握し、適切な“次善の処理”で対応した背番号2。ゲラにとっても大きなワンプレーだ。
1死三塁となれば状況的に内野手は前進守備を敷く。外野フライも許されなくなる。ヒットゾーンは広がり、バッテリーエラーの危険性もある。中日側にとってもスクイズという選択肢も出てくるなど、攻撃の幅が広がる。一方、二塁で止めることができれば勝ち越しの最低条件はヒットとなり、助っ人右腕に心の余裕が生まれる。
ゲラは板山を三振に仕留め、加藤匠を左飛に打ち取ってピンチを脱した。ゲームは延長戦にもつれこんだが、十回に代打・原口の決勝打、植田の走者一掃3点三塁打、佐藤輝のダメ押し適時二塁打で一挙5点を奪った。
梅野は「めちゃくちゃでかいっす。あそこで事を起こされたら1点が入ったかもしれないし、内野も前進守備やったやろうし。勝ててよかったっす」と語った。決して目立たないが、“プロの技”を見せたワンプレー。連敗ストップの一つの要因になったことは間違いない。(デイリースポーツ・重松健三)