【スポーツ】体操・橋本大輝の素顔 重圧に苦しむ弟を背中から支える 3兄弟の長兄が語る
パリ五輪の体操男子団体総合で2大会ぶりに金メダルを獲得した体操ニッポン。最終演技者として頂点を呼び込んだのがエースの橋本大輝(23)=セントラルスポーツ=だ。東京五輪では個人総合、種目別鉄棒で2冠を達成。パリ五輪では5月に右手中指、7月上旬に左肩を痛めたことも影響して、悲願の団体金を獲得したものの、個人総合で6位、鉄棒は予選落ちに終わった。期待と重圧を背負ったエースの裏側を3兄弟の長兄・拓弥さんが語った。
橋本は3人兄弟の末っ子。2人の兄を追うように、6歳から千葉・香取市の佐原ジュニア体操クラブで競技を始め、中学卒業まで通った。自然豊かな地域にある廃校の体育館に、山岸信行コーチが買い集めた器具が並ぶ。のびのびとした環境で、生き生きと技を覚えて育った。
両親が共働きのため、行きは祖父が送り、帰りは仕事終わりの父が迎えにきた。当時から練習の虫の片りんは見せていた。「『納得できないとやだ』みたいなタイプ。うまくできないのが嫌だから練習するんでしょうね」と長兄・拓弥さん。それぞれが自身の練習に励みながらも、迎えのギリギリまで練習に励んだ。
3人とも体操は続けていたが、進学先はバラバラ。次第に一緒に過ごす時間は減っていった。その中でも体操がつなぐ“見えない絆”は健在だった。「こんなことできるようになった」「これ見て、すごくない?」。技が完成しては、自慢げに動画が送られてきた。
時は過ぎ、橋本は五輪王者となった。長兄とはゴルフの打ちっ放しに行くなど、体操以外の遊びを楽しむこともある。言葉の節々にエースとしての重圧がにじむ姿を見ていた。
「やっぱり『自分が頑張らなきゃ』って気負い過ぎている部分はあるのかな。それでもやらなきゃいけないのが事実なので。苦悩じゃないですけど、そういうところも多分ある」
何をやっても、五輪2連覇王者の内村航平さんと比較される。日本を背負っている自負もある。思い悩む苦しい時期もあったが、あえて拓弥さんはフランクに接して背中を押してきたという。
団体総合では奇跡の逆転劇の一員となった。個人総合では初代表の岡慎之助(徳洲会)が金メダルを獲得する中、演技に精彩を欠いて6位に終わった。パリ五輪を終えた橋本は悔し涙を流しながらも、どこか解放された表情で「悔いの残らない大会」と言い切った。「(東京五輪後の3年間は)しんどかった。でも、ここで金メダルを取れた自分を褒めたいし、みんなのために団体金メダルを取れておなか一杯。また気持ちを整理してからスタートしたい」。28年ロサンゼルス五輪での金メダル奪還へ、23歳の物語は続いていく。(デイリースポーツ・田中亜実)