【スポーツ】なぜバレー男子日本代表は強くなったのか?ブラン前監督のすごさとは “右腕”として支えた元コーチ明かす
パリ五輪で激闘を繰り広げたバレーボール男子日本代表。今月末には新監督が正式発表される予定だが、世界に通用するチームにまで成長させたのが、日系アメリカ人を除き、初の外国人代表監督となったフィリップ・ブラン前監督(64)だ。2016年リオデジャネイロ五輪では出場すらできなかった日本が、なぜここまで強くなったのか。欧州の風を吹き込んだ名将のすごさを、右腕として支えていた伊藤健士コーチ(43)=現大阪ブルテオンコーチ=が明かした。
ブラン前監督の一番の改革は、世界に阻まれ続けてきた日本代表の固定観念を壊したことだった。2014年から日本代表アナリストを担い、指揮官の“右腕”として代表コーチを務めた伊藤健士さんはこう語る。
「昔の日本はサイズ、パワー、高さで世界に負けているから『オリジナルの戦法がないとダメ』『必殺技がないと勝てない』みたいな先入観が強すぎた。でも世界トップの技術、戦術をやれば日本人だって戦える、と分からせてくれたのがフィリップだった」
必殺技は必要ない。守備の技術が高く、攻撃陣も石川祐希、清水邦広、柳田将洋ら優秀なアウトサイドヒッター(OH)がそろっていた日本の可能性を、指揮官はいち早く見抜いていた。世界から後れを取っていた理由は、優秀なOHがそろっていたがために、攻撃パターンがOHに偏り過ぎて予想されやすかったから。就任してからは、ミドルブロッカーのクイックと、パイプ(センターのバックアタック)の重要性を説き、中央の攻撃を得意とする藤井直伸さん、関田誠大らセッターを招集。チーム作りを行っていった。
日本代表に植えつけられていた「セッターが動いたバックアタックは意味ない。そもそも打つのが難しい」との固定観念も壊した。セッターの位置に完璧に返球するAパスを前提とした日本の戦術を、「トスがズレたところからクイック、パイプを使えるかどうかが生命線」(ブラン前監督)と、セッターが1、2歩動いて対応するBパスを基準とする攻撃展開に変更。サーブ力が上がっている世界相手に、完璧なレシーブは難しい。なら多少崩れたところから対応できる技術を身につけた方がいいと考えた。
練習を重ねると、Bパスの展開、中央の攻撃で相手ブロックが分散されることでOHが生き、日本の勝率は一気にアップした。2018年W杯で4強入りすると、21年東京五輪では29年ぶりのベスト8、24年ネーションズリーグは銀メダルを獲得し、世界ランクは一時2位まで上昇。元から日本の攻守の技術は高かった。そこにブラン前監督というラストピースがはまることで、リオデジャネイロ五輪では出場すらできなかった日本は、世界と対等に戦えるチームへと成長した。
「フィジカルではなく、世界で通用する技術を日本がやって精度を高めれば全然戦えるということが証明されてきている」と、ブラン前監督のチーム作りに脱帽する伊藤コーチ。52年ぶりのメダル獲得を狙ったパリ五輪は準々決勝で敗退したが、選手たちは28年ロサンゼルス五輪でのリベンジをすでに見据えている。
今月末には日本バレーボール協会から新監督が発表される見込み。ブラン前監督が作り上げてきたものに、新監督がどのようなものを積み上げていくのか注目したい。(デイリースポーツ・谷凌弥)
◆フィリップ・ブラン 1960年5月20日、フランス出身。選手時代は同国代表としてソウル五輪に出場し、86年世界選手権ではMVPを獲得した。91年に引退し、2001年から同国監督に就任。02年世界選手権では3位に導いた。中垣内祐一氏が日本代表監督を務めていた17年に、日本代表コーチに就任。21年東京五輪後に監督となり、23年には日本を08年北京以来4大会ぶりの五輪自力出場に導いた。8強だったパリ五輪後は、韓国Vリーグのキャピタル監督に就任した。193センチ。