【サッカー】広島 新スタジアム開業がクラブにもたらしたものとは?売り上げはリーグ14位から3位の大躍進「もうJリーグの一地方クラブではない」
今年の広島のハイライトと言えば、新サッカースタジアム・エディオンピースウイング広島の開業だろう。広島市内中心部に夢の“ハコ”が完成し、街中の人の流れは大きく変わった。この強力な追い風は本拠地として使用するJ1・広島にどのような影響を与えたのだろうか-。
12月1日の今季ホーム最終戦後のセレモニー。広島・仙田信吾社長はマイクの音が割れそうなほどの声量で力強くサポーターに向けて宣言した。「サンフレッチェはもうJリーグの一地方クラブではありません。Jリーグを引っ張っていく存在になっていきます」。予測を上回る新スタ効果と確かな手応えが強気な言葉に結びついた。
市内中心部からバスなどで30分以上を要していた広島ビックアーチ(現ホットスタッフフィールド広島)からの本拠地移転はクラブ経営にはド級の好影響を与えた。2024年度の売り上げ着地見込みは約78億円で昨年の42億円から86%増。売上数値は浦和の約100億円、川崎の約80億円に次ぐリーグ3位となる見込みとなり、昨年の同14位から大幅なジャンプアップとなった。
異次元の上昇の要因は単純だがスタジアムに人が集まったことが大きい。今季のリーグ戦ホームゲーム来場者数はクラブ史上最多の48万6579人。19試合中18試合でチケットが完売し、年間の収容率90・3%は堂々のリーグ1位となった。スキッベ監督が「なぜこんなにも小さなスタジアムを建てたのでしょうか。お客さんが入りきりません」とジョークを飛ばしたのもうなずける。
それに伴ってスタジアムグルメの売り上げは4・4億円となり、前年から3倍以上の増加。グッズ売上高も9・4億円で前年から2倍以上の伸びを見せ、過去最高を更新した。これまでカープとサンフレのホームゲームW開催日、市内中心部は赤一色の印象だったが、今年は新スタ周辺の紙屋町は紫のユニホームを着ている人でごった返していた。街の風景からも紫の存在感の高まりをうかがい知ることができる。
今季の広島はリーグ2位の奮闘を見せた。夏前に川村、大橋の主力が海外へ移籍する痛手を負うも、久保允誉会長の「スタジアム初年度でタイトルを取る」という大号令の下、補強を敢行。川辺、アルスラン、パシエンシアをチームに迎え入れて、最終節まで優勝の可能性を残した。
ただ、これだけ充実した1年を送ってもクラブ経営は難しい。仙田社長は今年度の決算について、「黒字が出てもほんの少しというイメージ」との見通しを示した。設備、選手強化などに可能な限りの投資を実行してきた。スタジアムに見合ったチームをつくるための努力は今後も惜しまない。
チーム最多となる9得点をマークしたMF加藤陸次樹は言った。「このスタジアムにふさわしい結果が求められるだろうなと思っていました。何か残さないといけないし、届けないといけない。そういった緊張感が今年はありました」。新スタジアムが選手たちのモチベーションとなっていたことは確か。吹き続ける追い風を背に広島はさらに強くなっていく。(デイリースポーツ・畠山賢大)