【スポーツ】フィギュア鍵山優真 全日本親子制覇の軌跡 父・正和さんは3連覇経験
フィギュアスケートの全日本選手権(大阪府門真市・東和薬品ラクタブドーム)が22日に閉幕した。男子は2022年北京五輪銀メダルの鍵山優真(21)=オリエンタルバイオ・中京大=が初優勝。父でコーチを務める正和さんも1992年度まで3連覇しており、男子史上2組目の親子制覇となった。父と息子が銀盤に描いた歴史をひもとく。
全日本のリンクに親子の物語が刻まれた瞬間だった。フリーで渾身(こんしん)の演技を終え、氷上にころんと大の字で寝転んだ鍵山は「気持ち良かった」と笑った。そのほほ笑ましい姿をリンクサイドで見守った父・正和コーチはガッツポーズをして喜び、そして号泣した。
「久しぶりに父が感動して泣き出していて、うれしかった」-
生まれる前から始まっていたのかもしれない。父はかつて全日本を3連覇しており、五輪にも2大会連続出場。鍵山少年が憧れるのは必然の流れでもあった。中学生の時には、父の現役時代の動画を「格好良いでしょう!」とコーチに自慢するほどだった。
親子二人三脚で歩んできたが、18年6月に父が脳出血で倒れて入院。当時15歳の少年は激しく動揺した。「嫌でも自分一人で何とかしないといけなかった。何が足りないか考えた」。必死に前を向き、自身を鍛えた。父が半年後に復帰すると、一皮むけた息子の姿があった。
その後は北京五輪で銀メダルを獲得。国内外で表彰台の常連として活躍してきたが、五輪、世界選手権、GPファイナル、全日本選手権は全て最高順位が2位。あと一歩が足りず、全日本前には「金メダルへの欲が噴火しそう」と苦笑いした。
それだけに7度目の全日本でようやく手にしたビッグタイトルの意味は大きい。父は「これだけは絶対に取ってほしかった。これでやっと世界を狙っていける」と心を奮わせた。息子の前では「おめでとう!」しか言葉が出ずに、ひたすらに泣きじゃくった。
日本のエースを堂々と背負った鍵山は「父が(全日本の)金メダルを取った個数を超えたい。僕も歴史を残せるように頑張りたい」と熱を込めた。26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪の枠取りが懸かる来年3月の世界選手権(米ボストン)では、6種のジャンプ全てで4回転を跳ぶ王者イリア・マリニン(米国)に挑むことになる。
「これからは全日本王者として注目される。それに恥じぬようにしたい」。また一つ成長した21歳は、厳しくも優しい親子での旅路を続ける。(デイリースポーツ・田中亜実)