【スポーツ】豊昇龍が優勝者インタビューで触れた「ある人」とは? 時には厳しい言葉を投げかける「日本のお母さん」

 大関豊昇龍(25)=立浪=が29日の日本相撲協会の臨時理事会を経て第74代横綱になる。2度目の賜杯を抱いた26日の大相撲初場所千秋楽、優勝者インタビューで触れた「ある人」とは。優勝パレードのオープンカーで同乗した少年とは。そこには豊昇龍らしい思いやり、精神的に成長する過程が反映されていた。

 大逆転だった。千秋楽の本割で2敗の金峰山が、3敗の王鵬に敗れ優勝決定戦へ。結びで豊昇龍は大関琴桜を破り、ともえ戦も連勝し“1日3勝”で優勝。場所中に横綱照ノ富士が引退し、93年初場所以来の横綱空位を避けたい雰囲気にも後押しされ、綱とりを成就させた。いずれも勝負強さが際立った。

 NHKの優勝者インタビューで「先場所千秋楽で悔しい思いをして、ある方に約束して、この気持ちでぶつかりますって言いました」と語った。優勝次点だった昨年九州場所の無念を晴らした。

 この「ある方」とは、千葉県柏市在住の久保田るりさん(56)だという。息子でダウン症を抱える輝哉(てるちか=17)さんは26日の優勝決定後、パレード車で豊昇龍と旗手の木竜皇の間に同乗した。豊昇龍はるりさんを「日本のお母さん」と呼び、輝哉さんを「日本の弟。てっちゃんです」と語った。

 コロナ禍前の2019年、当時十両だった豊昇龍と母子は出会った。

 家と学校の往復だけだった小6の輝哉さん。母はスポーツをやらせたかったが、受け入れ先が見つからない。ようやく、永井明慶氏が代表を務める市内の相撲クラブ「柏相撲少年団」に通えることになった。

 豊昇龍は高校時代、柏日体(現日体大柏)の相撲部で永井氏の指導を受けた。その縁で角界入り後も度々、同少年団の稽古に顔を出していた。永井氏は豊昇龍と母子の関係を「人懐っこい輝哉くんをかわいがっていた。お母さんとの交流も始まりました」と述懐した。

 るりさんは、かねて豊昇龍について「謙虚さが足りない」と心配していたという。時には厳しい言葉を投げかけ、精神的な甘さを指摘した。

 昨年の初場所。豊昇龍は途中休場した。開き直ったような態度を見かねたるりさんは、部屋の千秋楽パーティーで「自分の仕事は何なのか?」と多くの出席者がいる中で説教をした。その後はしばらく連絡を無視するなど、心を鬼にして“息子”の成長を促した。大関になりテングになっていると感じたからだった。

 23年名古屋場所で初優勝した際、「次に優勝した時は輝哉さんをパレード車に必ず乗せる」と約束していた豊昇龍。るりさんは「1年半かかっちゃったけど、約束を果たしてくれた。うれしかった」と感慨を口にした。輝哉さんは車上で笑みを浮かべていた。

 るりさんは「今まで以上にいいことも悪いことも注目される。彼の人生を考えれば心配」と言いつつ「自分らしい相撲をとってほしい」と豊昇龍にエールを送った。

 優勝から一夜明け、豊昇龍は「生活面でも土俵の上でも、誰かのマネをするのではない。新しい自分を出したい」と誓った。聞く耳を持って、叔父の朝青龍とは異なる横綱へ、新たな道を切り開いていく。(デイリースポーツ・山本鋼平)

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