【野球】どうやってNPB未経験からスカウト転身の夢かなえた ヤクルトが異例の抜てき 元独立L右腕の情熱と行動力

 ヤクルトが1月1日付でNPB経験がない平岡佑梧氏(24)を中四国担当スカウトに抜てきした。平岡氏は兵庫の県立高・津名、国立の香川大を経て、四国ILp香川へ入団。最速148キロ右腕としてドラフト候補にも挙がったが23年に引退した。香川の球団職員として働く傍ら、12球団へスカウトへの転身を希望する手書きの手紙を送付。全球団に断られながらも、熱心なプレゼンを続けて夢をかなえた。

 12球団でプロ経験がないスカウトは珍しい。未経験の人を採用する場合は、キャリアや実績が評価されるのが通例だ。

 平岡氏は現役時代に名門でのプレーや、全国大会に出場した経験はない。社会人経験も1年しかない24歳。ヤクルトが採用を決断したことは異例と言える。

 同氏も当初、厳しい状況は理解していた。それでも夢は諦められなかった。「僕は人生の軸として、本気な人の夢への架け橋になりたいんです」。いちるの望みにかけ、情熱と行動力でヤクルトを動かした。

 小学校時代は柔道に励み、阿部詩(東京五輪女子52キロ級で金メダル)とも対戦。中1から野球を始めると頭角を現し、中3で投手に転向した。

 初めてプロを意識したのは兵庫・淡路島の県立高・津名時代。最速143キロを計測し、複数の私大から推薦の声がかかった。ただ、小中高と塾に通うなど文武両道。「ずっと勉強してきたし、環境を言い訳にしたくなかったんです。1年生から投げればプロの目に留まるかもしれないと思ったので」。プロ入りの近道とは言えない国立大進学を目指し、高3夏以降は1日14時間の猛勉強。目標の広島大ではなかったが、現役で香川大教育学部に合格した。

 四国六大学野球連盟に所属する香川大は野球に力を入れておらず、平日の練習は数時間。専用グラウンドはない。それでも平岡氏は、自腹で週1回は高松市から片道約3時間をかけて神戸市のジムに通うなど努力を続け、最速は148キロまでアップ。スリークオーターの変則右腕ということもあってドラフト候補に挙がり、NPBの9球団が視察に訪れた。

 しかし、22年度ドラフト会議での指名はなかった。ここで夢を諦めず、大手2社の内定を蹴って四国ILp・香川に入団。だが、23年6月の肋骨(ろっこつ)骨折をきっかけに引退を決意し、香川の球団職員となった。

 香川では営業の統括として、県内外200社のスポンサーを取りまとめるなど多忙な日々を過ごした。一方で、どうしても大学時代にマウンドから見た光景が忘れられなかった。

 「球場でスピードガンを向けられた時にうれしくて。スカウトっていいな、と心の底に芽生えていたんです」

 次第に憧れが抑えられなくなる。24年5月。筆ペンを手に取った。大学で教育心理学を専攻し、メンタルの行動への影響を学んだ経験や、営業職での行動力など持ち味を便箋5枚につづり、12球団へ手紙を送った。

 4球団から返事があり、全て不採用。それでも諦めない。ヤクルト・押尾健一スカウトと球場で会うたびに、横に座って自分の持ち味をプレゼン。24年夏の徳島大会では生光学園・川勝(現日本ハム)の視察に来た押尾スカウトに会うと、自主的に川勝のレポートをA4の2枚にまとめてメールで送った。

 その熱意がヤクルト球団へと伝わり、昨秋のドラフト会議後に採用が決まった。「快く送り出してくれた香川球団の関係者、リスクがある僕を採用していただいたヤクルト球団には感謝しかないです」と周囲への思いを語り、念願のスカウト業へ向けて決意を口にした。

 「僕は目標の大学にも行けなくて、プロにもなれなかった。でも、初めてやりたいことを実現できたんで。思っていた以上に大変ですけど、学びながら自分らしさを出していきたいですね」。プロ野球界入りはまだ通過点。異色の経歴を持つスカウトは、未来のプロ野球選手へ情熱を注いでいく。(デイリースポーツ・西岡 誠)

 ◇平岡 佑梧(ひらおか・ゆうご)2000年6月26日生まれ、24歳。兵庫県淡路市出身。東浦中1年から軟式野球部で野球を始め、3年から投手。津名では甲子園出場はなし。香川大を経て、23年に四国ILp・香川へ入団し、同年限りで現役を引退。24年は香川の球団職員。25年1月からヤクルトの中四国スカウトに就任。

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