32年ぶり出場の大社が“普段着野球”で63年ぶりの夏の甲子園勝利!
“普段着野球”の勝利だ!32年ぶりの夏の甲子園出場で、優勝候補の報徳を破った島根の古豪・大社だ。
11日の1回戦で報徳と対戦。初回無死、先頭の藤原が右前打を放ち、果敢に二塁を狙った。タッチアウトになったが、ベンチへ戻る時の表情が、輝いていた。
初めての甲子園。しかもチケット完売の満員のスタンド。緊張しているはずの先頭打者とは思えない表情だった。プロ注目の報徳・今朝丸投手からいきなりヒットを放ち、甲子園を沸かしただけでもナインを鼓舞するには十分だっただろう。
まるで島根大会が開催された、大社高校から目と鼻の先の県立浜山公園野球場でやっているかのような、のびのびとしたプレーぶりだった。50メートル5・8秒の俊足で地方大会では12盗塁。打率は6割6分7厘。リードオフマンの名にふさわしい活躍である。
その藤原の、いつも通りの積極性が、甲子園というマンモススタジアムを味方に付けた。2番の藤江がサードへの内野安打でヘッドスライディング。セーフの判定に雄たけびを上げると、大社の応援団が陣取る一塁側アルプススタンドの興奮がカメラマン席にも伝わってきた。
3番の石原が四球で歩き押せ押せムードの2死一、三塁で下条が先制の左前適時打。さらに相手守備の乱れで追加点を奪うと、一塁側スタンドはお祭り騒ぎだ。終盤の7回には連打でチャンスを広げ2死一、二塁から園山が左前適時打を放ち、報徳のエース・今朝丸を攻略した。
投げては左腕エース・馬庭が9回1失点の好投。こちらも島根県大会の準決勝、決勝と変わらぬ落ち着いたマウンドさばきで強豪の反撃を封じた。
私は同カードを取材する前に頭に浮かべていたキーワードがある。それは“普段着野球”だ。相手は兵庫県内最多の16回の出場を誇る屈指の強豪校の報徳。今春の選抜大会で2年連続となる準優勝。昨春の選抜大会のメンバー7人が残る、優勝候補。32年ぶりに出場の大社が、大観衆で埋め尽くされたマンモススタジアムで普段通りの野球ができるのか。一塁側のカメラ席で、ファインダー越しに母校の健闘を祈るような思いで見ていた。
かれこれ40年以上前のことだが、私は第55回選抜高校野球大会に、大社の背番号15の控え投手として甲子園に出場した。準々決勝で水野雄仁投手(元巨人)を擁する池田に敗れたが、大舞台で普段通りの野球をしたことが好結果を生み、島根県勢22年ぶりのベスト8となった。
母校大社の野球は機動力と堅守。単打で出塁し、足でチャンスを広げる。この日も出塁すると積極的に走っていた。レンズを手に気が抜けなかった。
最終回、タイムリーを打たれたエース・馬庭。報徳の粘りとスタンドの大応援と戦っていた。“逆転の報徳”という伝説のフレーズが私の脳裏をよぎる。2死一、二塁、一番・西村にショートへの内野安打を打たれ、歓声と悲鳴が交錯。が、次の瞬間、三塁手の園山が三塁を回った二塁走者を追いかけタッチアウト。銀傘の影が広がったグラウンドで雄たけびをあげるエース・馬庭が、ファインダー越しに見えた。
最後は堅い守りで報徳の反撃をかわした。堅守の大社らしい幕切れだった。強豪のプレッシャー、そして大舞台の雰囲気に飲まれることなく“普段着野球”を貫いた大社が、63年ぶりに夏の甲子園で勝利した。
母校が報徳相手にここまでやるとは…。甲子園に響き渡る校歌を、心の中で合唱しながら、私は歓喜のシャッターを切った。(デイリースポーツ・開出牧)