医学生アイドル頑張れ…そして自問自答を

 「町医者の独り言・第3回」

 ちょっと前の話です。アイドルグループLinQのメンバーで、九州大学医学部を今春卒業した秋山ありすさんが医師国家試験に落ちたことが、インターネットなどで話題になっていました。メディカルアイドル…そんな時代なんですねぇ。今回の合格率は91・5%。ネットでは「運転免許試験より高い合格率なのに」という厳しい声もありました。なるほどなぁ…思うところはいろいろあります。まず、医師になるプロセスについて触れてみます。

 医師になるためには大学の医学部に進まなければなりません。現在は、われわれのころより難しくなっているようです。晴れて合格したら、次は学内の定期試験があります。ちゃんと勉強してないと留年します。追試もあります。私は勉強が好きなので、人が1回で終わるテストを数回も受けたことも…(笑)。

 5年生からは臨床実習が始まるのですが、今はその前に「共用試験」があります。当時はなかった制度ですが、学科と実技があって両方に合格しないと先に進めません。たくさんのテストを乗り越え、臨床実習が終わり、卒業試験をパスしたら、いよいよ医師免許を取得できる医師国家試験に臨めます。ただ、大学側は高い合格率を維持したいので、見込みがない場合は卒業させないのが一般的。6年生は卒業試験と国家試験の両方をにらみ、対策することになります。私の大学では、国家試験に関して、1年前からグループを組んで勉強をしました。放課後に学校で深夜まで。みんなで協力しあって合格しようという感じでしたね。

 メディカルアイドルさんは、この道のりの最後のところまでは行っていたのでしょう。ご本人は芸能活動を休止して来春合格を目指すと、話されているとか。当時の私よりはるかにしっかりした考えをお持ちです。長い人生、1年ぐらい足踏みしても十分取り戻せるはず。ぜひ頑張ってほしいです。ほんまにそう思います。

 しかし、一つだけ言わせて下さい。本当に大変なのは、その後なんです。私は医師になってからが、あまりにも大変だったので、実は国家試験への勉強は辛いと思えないのです。喉元すぎれば熱さ忘れるなのか、単に記憶力が弱いのかはわかりませんが(苦笑)。正直、資格を得るまでの苦労など、「現場」でのそれに比べると、全然たいしたことはありません。彼女が1年間、勉強をし直す中で、どんな医者になりたいのかを真剣に自問自答する時間を持ってもらえれば、やがて知る“ギャップ”に耐えうる力になるのではと思います。

 今回のニュース。受け取り方はさまざまですよね。「医師を目指す人間だから、90%の合格率の試験には通りなさいよ」という声もありました。私には、世の中の人から見た医師の責任の重さを感じさせてもらえる一文ではないのかなと感じられ、反論するよりも、むしろ身が引き締まる思いになりました。

 ◆筆者プロフィール

 谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。1969年、大阪府生まれ。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。

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