インフルエンザのワクチン接種はするべき“悲劇”のリスクは減らせます
「町医者の独り言・第13回」
ワクチンって本当に効くの?-患者さんからよく聞かれます。それは疾患によります。インフルエンザのワクチンなどは、みなさんが一番興味のあるところでしょうか。
インフルエンザに関しては、正直なところ当たりハズレがあります。その年に流行するであろうと思われるインフルエンザウィルスのタイプを予測して作製されます。予測が外れると効果が減少します。具体的には、世界保健機構(WHO)の専門会議でインフルエンザワクチンに用いる推奨株が年2回選ばれます。推奨株を参考にして、日本では国立感染症研究所の検討会議で決定され、厚生労働省が最終決定して、ワクチンが作製され市場に出回ります。
インフルエンザワクチンの効果は総じて70~80%程度、就学前の小児では20~30%程度といわれており、ワクチン接種を受けた人であってもウィルスに感染、発病する可能性があります。ただ、同ワクチンは、ウィルスの感染や発症そのものを完全に防御はできませんが、重症化や合併症の発生を予防する効果は証明されています。
実際には、高齢者に対してワクチンを接種すると、しなかった場合に比べてインフルエンザによる死亡率を5分の1に、入院を3分の1から2分の1まで減少させることが期待できると報告されています。インフルエンザの流行時期を検討した結果、12月中旬までの接種が推奨されています。接種後の予防効果は、2週間から5カ月程度と言われています。小児の免疫能力は大人と比べて弱いために生後6カ月から12歳以下では2回接種が推奨されています。
2回目までの接種間隔は、1回目から2~4週間後での接種が推奨されていますが、最も推奨されている間隔は4週後の接種。学級閉鎖率を調べたところ、4週間隔の群の閉鎖率が最も少なかったとの報告があるからです。海外では接種間隔を4週以上と指定している国もあります。また、13歳以上であっても、著しく免疫能力の低下した患者さんには2回接種が推奨されています。健常人であれば、通常の1回接種で十分に免疫がつくとされています。
インフルエンザワクチン接種の是非は、確かに議論の余地がありますが、私は毎年接種しています。接種しなくても罹患したことがない人もいれば、接種しても何度も罹患する人がいます。個々の免疫能力にもよりますので、一元的に言うことはできませんが、合併症である肺炎、インフルエンザ脳症になる確率を少しでも低下させる意味で、ワクチンの接種は意味があると考えています。
特に幼少の子供たちには受けてほしいのです。数年前、ある屈強な初老の男性が診察に来られた際、自分の病気のことではなく、インフルエンザで亡くなられた小学校2年のお孫さんの話をされました。「なぁ先生、なんでワシの孫なんじゃ。自分のことやったらなんでも辛抱できるけど、孫のことはつらいなぁ…救急車の中で『のどが渇いた』と言うたのが最後の言葉やったんや…」。お話を聞いているうちに、涙が止まらなくなった記憶があります。
ですから、少しでもこうしたリスクを減らすことができるのであれば、ワクチンは接種するべきだと思うのです。また、予防接種対象疾患であるジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、麻疹、風疹、日本脳炎、結核、小児の肺炎球菌感染症、インフルエンザ菌b型(インフルエンザウィルスとは違います)、ヒトパピローマウィルス感染症、水痘、B型肝炎に対するワクチンは接種するべきだと考えています。上記疾患は、ワクチンを接種することにより、高い確率で感染を防ぐことができます。みなさんも接種することをお勧めします。
◆筆者プロフィール
谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。1969年、大阪府生まれ。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。