風邪とインフルエンザは違います…意外に多い“誤解”
「町医者の独り言・第14回」
寒い季節になってきました。当院にはワクチン接種などで多数の患者さんが来院されます。ワクチン接種をしたあとに、時々耳にするのが「これで今年は風邪ひかへんな!先生!」です。う~ん…結論から言いますと、これは間違いなのです。
よく誤解されていることですが、風邪とインフルエンザは違います。正確に言いますと、風邪ではなくて「風邪症候群」なのです。病名ではなく、病態なのです。ちょっと難しい話になりますね。簡単に説明すると、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、咽頭痛、咳、発熱などの症状がある状態ならば、その原因がインフルエンザウィルスであっても、マイコプラズマであっても一般的な表現として「風邪」ということになっているのです。
たとえば、インフルエンザのワクチンを接種してもそれ以外の風邪症候群に罹患する可能性はあります。また、残念ながら、そのワクチンはインフルエンザを完全に予防することもできません。風邪の原因の80%から90%は、ウィルスによるものです。その中でも30~40%がライノウィルスが原因で、10%がコロナウィルスと言われています。一般的にはあまり馴染みのないウィルスですが、これらのウィルスに罹患しても重症化することが少ないために知名度が低いのです。多くの場合が非ステロイド系の抗炎症薬や、抗ヒスタミン剤などの対症療法により治癒します。ウィルス感染ですが、よく抗生剤が投与されるのは2次感染の予防といった意味合いがあります。
ライノウィルスは変異を起こしやすく、100種類以上のウィルスが存在するために、一度罹患しても別のライノウィルスに罹患する可能性もあります。ですからワクチンなどを製造することは難しく、1年の間で何回も風邪をひいてしまうこともあるのです。比べてインフルエンザウィルスに罹患した場合には、症状が重く、乳幼児や高齢者では脳炎、肺炎などの重篤な合併症を来すことがあります。最悪、死亡などの転帰になることもあります。ですから、多くの人たちが予防接種をし、インフルエンザウィルスに有効な薬が次々と開発されているのです。
話をもとに戻すと、インフルエンザワクチンを接種したから、それ以降に風邪に罹患しないかといえば、そんなことはありえません。「風邪」という病名自体があまりにも多くの病気を含んでおり、それを予防する薬は、現在のところ存在しないんです。原始的に思えるかもしれませんが、こまめにうがい、手洗いなどの基本的な予防策を励行することが大事です。ただし、幼少期に接種が推奨されている麻疹、風疹、おたふくかぜなどのように、接種をすれば、おおむね予防できる疾患もたくさんあることも改めて認識して頂きたいです。インフルエンザは、そうした風邪つまり「風邪症候群」の中のひとつです。詳しくは知られていないと思いますので、簡単に説明させて頂きました。
◆筆者プロフィール
谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。1969年、大阪府生まれ。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。