毎晩、見知らぬ女性が部屋に…ある男性患者の訴え

 「町医者の独り言・第24回」

 先生、毎晩知らん女性が部屋に入ってくるねん-。

 85歳の男性患者さんが、真面目な面持ちで語りかけてきます。非常に几帳面な患者さんですが、あるときから突然、女性が部屋に入ってくるようになったとか。話を聞いたときは、寝ぼけておられたのか、夢でも見ておられたのかなと思いました。患者さんも、それ以上その話をされなかったので、あえてそれ以上は聞きませんでした。

 その次の外来でも同様に、女性が入ってくると、お話をされました。それも見知らぬ女性が何人も入ってくるとか。もしかすると“幽霊”が見えているのか…と思いましたが、そこで話が終わったので、その日もそれ以上は、深くたずねませんでした。

 そして、3度目の外来では、あまりにも部屋にたくさんの女性が入ってくるのでカギをかけたと、おっしゃいます。その後に奥様から「ぼけている」と罵られたようです。うちの家内は口が悪いと苦笑いをされていました。

 認知症に、こういうケースがあるのです。レビー小体型認知症といいます。他人に見えないものが見えてしまうのです。これといった治療法はなく、対症療法のみを施行されています。この患者さんには、漢方薬を投与しました。次第に部屋に侵入してくる女性の人数や頻度が減少し、最近はこの類(たぐい)の訴えはなくなりました。

 認知症には、色々な種類があります。よく知られているアルツハイマー型認知症、脳血管の障害によって起こる認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭部型認知症などに大きく分類されます。それぞれに特有の症状があります。

 アルツハイマー型認知症は、物忘れがひどくなり、自分のものを盗られた妄想などの症状が出現します。MRI(磁気共鳴画像)で脳の海馬という部分の萎縮が認められるのが特徴的です。脳血管障害によっておこる認知症は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血によって引き起こされます。物忘れの症状は軽いのですが、些細なことで泣いたり、笑ったりする症状を認めます。

 レビー小体型の認知症では、先ほどのように、見知らぬ人、虫、小動物など具体的で臨場感のあふれる幻視がよく見られます。前頭側頭型認知症では、人格変化や行動異常が目立ち、堂々と万引きをするなどの反社会的行動や、道徳観の低下を認めます。認知症いっても、一般的によくイメージされる物忘れだけではなく様々な症状があるんです。

 現代医学でも精神構造の解明はまだまだ困難です。これから、更なる研究のもとに劇的に改善する治療薬が生まれることに期待したいです。これらの病気が昔から存在していたとすれば、それは病気としてではなく、何か別の物として扱われていた可能性があります。そう考えると非常に怖いものを感じます。日常診療にあたっていると、教科書でしか見たことがない病気はたくさん存在しますし、当然のことですが、日々の勉強が大切であると思い知らされます。

 今回紹介したのは、一部の症状であり、診断補助としてMRIや脳血流の検査などを施行して専門的に診断します。身近な人で似たような症状の人がおられましたら、専門の先生にご相談ください。

 ◆筆者プロフィール 谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。

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