【櫻井直樹医師】手の汗の悩み まずは2つの治療法併用で
【Q】昔から手の汗が多く、書類などが湿ってしまい困っています。(30代男性)
【A】お困りの症状は掌蹠(しょうせき)多汗症で、約5%程度の有病率といわれています。幼少期ないしは思春期に発症し、重症例では汗が手から滴り落ちるほどで、手足は絶えず湿って冷たくなります。睡眠中は発汗しないのも特徴です。
また、湿るため二次的に、皮むけ(汗疱=かんぽう=という湿疹)や水虫を併発しやすくなります。詳しい原因は分かっていないのですが、一部に家族歴もあることから遺伝子検索も現在行われています。
治療は日本皮膚科学会のガイドラインに沿って行います。内服薬の効果は限定的で、第一選択として、塩化アルミニウム外用(保険適応外)および水道水イオントフォレーシス(保険適応)があります。塩化アルミニウム外用療法は、手のひらと足の裏の皮膚に塩化アルミニウムを外用する方法ですが、皮膚が分厚い場所のため吸収が悪く、濃度を高くしたり、外用後にラッピングするなどの工夫が必要となります。
水道水イオントフォレーシスは、約20分間、微弱な電流を流したトレイの水道水に手足を浸すだけの簡単な治療です。週に1~3回、計8回の治療で約70%の有効率があります。改善後に中止してしまうと徐々に戻っていくので、維持療法が必要です。実際にはまずこの2つの方法を併用して開始することが多いです。
これで効果不十分な場合、ボツリヌス菌毒素製剤注射(保険適応外)を行います。効果は数カ月程度持続し治療効果も高いのですが、治療が激痛を伴うこと、治療費用が高いこと、手指の動きに一過性に支障が出るケースもあることから、あまり普及していません。
これらの全ての治療を行なっても効果が不十分な場合、全身麻酔下で胸腔鏡下胸部交感神経遮断術(保険適応)を行うこともあります。この治療は手の汗を止める効果は極めて高いのですが、代償性発汗(体の他の部位から異常に発汗する)を合併するリスクがあるため、適応を選んで慎重に実施すべき方法です。
◆櫻井直樹(さくらい・なおき)02年、東大医学部卒。東大付属病院、関連病院に勤務後、美容外科クリニック勤務を経て千葉県松戸市にシャルムクリニック開設、他院皮膚科顧問も歴任。皮膚科専門医、レーザー専門医。