【谷光利昭医師】大阪北部地震…ベッドの横にスリッパを置いてくれた娘

 「キャー」という職員の悲鳴とともに、病院が船に乗っているように大きく揺れているのを感じた。胃カメラに集中するあまり、周りの人たちよりも地震を感じるのが遅かった。当時は東京にいて阪神・淡路大震災を経験していない私にとって、人生で味わった最大規模の揺れだった。天井が落ちてくる!と真剣に思い、死の恐怖を感じた。

 ただちに検査を中止し、患者さん、スタッフ全員に建物の外へ避難してもらった。しばらく外にいて、安全を確認してから余震に注意をしながら仕事に戻った。

 気づくと町中が混乱に陥っていた。コンビニ、スーパーから水、食料が一気になくなり、高速は全面ストップで道路は大渋滞だった。救急車も通りにくい状況で、予定されていた手術や治療を中止した病院も多かったのではないだろうか。私の娘も電車内に7時間近くいたという。

 翌日も患者さんに胃カメラをしている最中に、自分が揺れている感じが残り、建物の中で音がすると過敏に反応してしまう。大阪北部地震は、本当におそろしいものだった。

 災害時、特に気になるのは糖尿病の患者さんだ。インスリンなどで血糖コントロールをしている人は、インスリンがなくなると命に関わるから。防災グッズの中にインスリンなどの常備薬をすぐに持ちだせるように心がけてほしい。また、透析を受けられている患者さんは病院が被災した場合、速やかに他の施設で治療が受けられるよう手配が必要となる。

 一般的には、まず外傷に気を付けなければならない。地震のあった日、私のベッドの横に娘がスリッパを置いていてくれた。地震直後の家の中にはガラスが散乱していることが多く、素足で歩くのは非常に危険である。娘からの無言の愛を感じた。最後に、今回の地震でお亡くなりになった方々のご冥福をお祈り申し上げます。

 ◆筆者プロフィール 谷光利昭(たにみつ・としあき)兵庫県伊丹市・たにみつ内科院長。外科医時代を経て、06年に同医院開院。診察は内科、外科、胃腸科、肛門科など。デイリースポーツHPで「町医者の独り言」を連載中。

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