【谷光利昭医師】人工透析問題で考えたこと 医師の思いはシンプルのはず
少し前に腎臓病患者の40代女性が人工透析治療を中止し、死亡していた件は、物議をかもしました。日本には国民皆保険制度があり、全ての人が平等に高度な医療を受ける事ができます。これは、非常にありがたいことです。多くの国民がこの制度の恩恵を受けていることは間違いありません。
透析患者さんもしかりです。通常であれば命の存続が不可能であるはずなのに、優れた医療、それを支える医療制度によって生き続けることが可能となっています。この件の当事者ではないので詳細はわかりませんが、我々医師は、患者の状態を見て常に最適な治療を考えます。
例えば、胃癌(がん)であれば胃癌の治療をしましょう、糖尿病であれば食事療法、運動療法、薬物治療をしましょうなどの提案をします。ただ、個々のポリシーなどにより、治療を拒否される患者さんがおられることも事実です。
私のような町医者のところにも、そういう人がおられます。無症候性の心筋梗塞を患い、心機能がかなり低下して歩行困難となった高齢男性の患者さんが胃癌を併発されました。治療を勧めましたが最後まで拒まれました。患者さんの息子さんを呼んで説得しましたが、残念ながら聞き入れてもらえませんでした。
また、腎不全末期の患者さんで、透析をしなければ命がないと宣告されたのにも関わらず、「死んでもええねん。ここまで長生きできたことに感謝してるから」という言葉を残して、そのまま亡くなってしまった人もおられます。この患者さんは、入退院を数回繰り返し、入院先でも透析の導入を勧めらましたが、頑なに拒否をされていたようです。他界されたあと、ご家族が挨拶に来られました。私は何もできなかったのですが…。
別のケースでは、手術をすれば助かる胃癌の女性が頑なに手術を拒否されていました。ご主人を呼んで相談し、必死で説得をして手術を受けて頂いたこともありました。その患者さんは今、当院に笑顔で通院しておられます。
人には様々な背景、思い、信条があり、一括りで物事を述べることはできません。その中で、医師は患者さんに少しでもよくなってもらいたいという単純な思いのもとに仕事をしているんです。
◆筆者プロフィール 谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。