居酒屋で働く70年代の青春スター 江藤潤は孫3人「各駅停車」で活動中
1970年代半ばの青春スター、俳優・江藤潤が作務衣(さむえ)とゲタ履き姿で、焼き鳥を焼いていた。まるで映画のワンシーンのようだ。絶妙の焼き加減を堪能した。「センスだよ。男ってこういうの好きだしね」。66歳。何をやっても、プロの仕事を貫く。そんな流儀を感じた。
江藤は2015年12月から、ザ・ドリフターズの仲本工事が都内で営む居酒屋「仲本家 JUNKAの台所」をスタッフとして手伝っている。芝居の公演時など以外、週5回ほど、夕方5時過ぎの開店作業から夜11時まで勤務。「人間観察も含めて楽しいですね」。接客もまた、役者の肥やしになっている。
1975年、日本映画史に残る傑作「祭りの準備」(ATG)で新人ながら主演デビュー。76年はテレビ版「青春の門・筑豊編」(MBS制作)で主役を務めた。アリスの主題歌が染みる映画「帰らざる日々」(78年、日活)でも青春のほろ苦さを等身大で演じた。
「長髪が主流の時代に“短髪のシラケ世代”としてフレッシュに見えたんじゃないかと。テレビドラマには出ていましたが、『祭りの準備』は初めての映画の現場。高知から東京に出て行く僕を『バンザ~イ!』と見送る原田芳雄さんの演技に、こみ上げちゃってね、列車のドアがバタンと閉まった瞬間、すーっと涙が落ちてきました」。今は亡き原田さんの仲人で80年に元演歌歌手の妻と結婚。俳優の長男・慶、会社員の次男と三男、そして、3人の孫がいる。
72年に「若すぎる恋」という曲で歌手デビュー。同年のドラマ「にんじんの詩」(NET、現テレビ朝日系)の挿入歌となり、歌手を目指すボーイ役でも出演。今も音楽活動を続ける。5月19日には浅草・東洋館のイベント「昭和93年祭り」で歌を披露する。
「今は何でもやらないといけない時代。仲のいい風間杜夫が落語やるんで、僕は講談をやった。80年代以降は舞台の面白さが分かってきた」。6月15~17日にはアガサ・クリスティー原作の舞台「マウストラップ」(中野区ウエストエンドスタジオ)に出演する。
「焦らず、急がず、食べていければいいかなと。僕が色紙に書く言葉は『八勝七敗 各駅停車 ゆるりゆるりと 一歩づつ』。相撲の一つ勝ち越し。少しずつ上がっていくと」。自然体を貫く。
(デイリースポーツ・北村泰介)
◆江藤 潤(えとう・じゅん)1951年10月28日生まれ、東京都出身。文中以外の出演映画は「純」「アッシイたちの街」「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」など。テレビでは「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」など時代劇にも出演。兄はジャッキー吉川とブルー・コメッツのベーシスト、故江藤勲さん。