越前屋俵太 テレビから突然姿を消した空白の15年間 人知れず関西大の教授に
あの越前屋俵太(56)が、本名の谷雅徳特任教授として母校・関西大学で教壇に立っていた。総合情報学部の「エンターテインメント論」。多様性をテーマにした授業では、有名なホトトギスの句を例に出し、殺すか鳴かすか待つか…あなたは何タイプですか?と、300人強の学生に自己分析させた。
“俵太教授”が本当にそれだけなのか?皆さんのオリジナルを考えよう!と呼びかけると、学生が一斉にペンを走らせる。「鳴かぬなら炭火で焼くぞ鳥貴族」「鳴かぬならウェブで検索ホトトギス」…大喜利ではない。学生の柔らかな発想を次々と引き出していく。
「僕らの時には認めてもらえなかった、多様性ですよね。いろいろあった方が面白いわけだから、いろんな人がいていいというか、そういうことが言いたいんですよね。社会のあるべき姿というか」。雇用や生活レベル、スタイルまでもが多様化していく時代。社会の多様なニーズに適応する人材の育成を目指している。
学生時代に出演した、テレビの深夜番組がデビュー作。街をロケし、道行く人にいきなりシャンプーをかけ髪を洗うという企画が話題になった。「探偵!ナイトスクープ」の初代探偵としての破天荒ロケは記憶に新しい。
ある時、芸能界の表舞台から突然消えた。芸能事務所に所属せずに、テレビに出る限界を感じたという。「心折れてますね。2001年ごろじゃないですか」。壁にぶち当たったヒーローが必殺技を編み出すように、5年間山ごもりをしていた。下山後、大学教授の紹介で大学講師に。気がつけば先生になっていたと、空白の時代を振り返る。教壇に立って10年になる。
15回の授業すべてで、300人を超える学生から提出されたレポートに目を通す。学生の成長がわかるという。「ひとりひとり初回から順を追って見ていくと、適当に授業を受けていたのにここで気がついて、考えているのか…とかわかるじゃないですか。それを評価しているんです」。気が遠くなるような作業だが、学生から教えられることも多い。芸能生活では、決して味わえない醍醐味だ。
「学術の先生が考えている理論を、実践することでムーブメントが起こらないかと。それを社会実装させるプロデュースをしたい」。机上の空論を現場の実論に変える。山ごもりで“必殺技”を編み出した越前屋俵太が、アカデミックな世界に挑む。(デイリースポーツ・杉田康人)