今の巨人には「愛」が足りない 長嶋巨人の名脇役は韓国で奮闘中
長嶋巨人の名脇役として活躍し、引退後も巨人2軍コーチ、独立リーグ新潟の監督などを務めていた後藤孝志さん(49)は今年から韓国プロ野球「斗山ベアーズ」の打撃コーチに就任した。50歳を前になぜ異国に渡ったのか。“九回の男”が打撃コーチの本分、日韓の野球、文化の違いから低迷する由伸巨人への思いを熱く語った。
取材日の9月中旬時点で、2位との差はもはや安全圏。10球団随一の攻撃力を背景にチームは首位を独走していた。しかし、後藤コーチに油断はない。
「1戦1戦ですよ。メークドラマを経験してますから。その逆もあり得る」
昨年10月31日、巨人3軍外野守備打撃コーチの職を突然解かれた。そこに声を掛けてくれたのがベアーズだった。11月6日から1カ月間臨時コーチとして急きょ参加し、打撃コーチという話へ発展。「その後、何の連絡もなく、正式契約したのはキャンプ入り直前の空港ですよ」と塩対応に戸惑ったが、持ち前の明るいキャラで今ではすっかりチームに溶け込んでいる。
「日本の打撃コーチは誰をつくったとか育てたとか言いますけど、本来の仕事は1点でも多く点を取るためにどうするか。それを考えること。コーチングもティーチングも、そのためにある。1軍コーチとしてそれをやりたかった」
だから選手の状態とデータを見比べ、試合前に監督に進言するオーダーは1種類のみ。韓国球界では監督の権威は絶大で他の韓国人コーチは“絶対服従”に近いというが、後藤さんは時にそんなしきたりがあることを知らないふりをして、監督にじんわり近づいていくと言う。
「この打者2人の並びを外せない時など、提案することもあります。納得してもらえれば、それで決まり。NOの時は監督に従い、別の機会に頃合いを見計らって意見交換させてもらってます」
優秀な通訳がついているが、言葉の壁も気にしない。「聞こえなくていい言葉もあるので、それを逆にプラスにしている面もあるんですよ。日本だと戦う前に派閥とかしがらみがあったりしますが、こっちにいるとストレスフリーです」
18年間の現役生活ではガッツあふれるプレーで数々の名シーンを演じた。日本シリーズで西武・松坂から放った三塁打。自打球3連発で場内を沸かせ、引退試合では一人娘から花束を渡され、涙にくれた。コーチとしてのスタートは2006年、米大リーグ・ヤンキースの下部組織。仲人でもある元巨人監督・原辰徳氏の助言だった。07年、独立リーグ新潟の監督に就任したが、下位に沈み1年で辞任した。
「当時の選手から“結婚しました”と聞くとうれしいですが、あの頃の僕にはしっかりしたビジョンがなかった。今でも申し訳なく思う」
そこから主な野球人生は古巣巨人。2軍、3軍と育成部門に携わってきた。今季イースタン・リーグ打撃部門上位につける2選手は、昨年3軍で指導していたとあって「うれしいです」とニヤリ。その一方で、1軍の戦いぶりには首をひねる。
今の巨人に足りないものは-。この問いかけに「愛でしょう。長嶋さんの頃はユニホーム組、背広組ともに一体感があった」と答えてくれた。
追加取材した日は午前9時に待ち合わせて、ピビンバで腹ごしらえ。現在、過去、未来を語り、食べ終えると選手の練習に付き合うため、本拠地チャムシル球場に向かった。“九回の男”の野球人生はまだまだ道半ばだ。(デイリースポーツ特約記者・山本智行)