甲子園で焼き肉店経営の元阪神・中込さん 「店をやってるうちに優勝を」古巣にエール
甲子園の熱気が直に伝わってくる場所に、元阪神投手・中込伸さんが経営する焼き肉店「伸」はある。
試合開催日。中込さんは、テレビ中継で終了時間を予測して厨房でお客さんを迎える準備を整えていく。「終了が9時半を過ぎたらダメ。球場で食べるし、遅くなると帰りの電車のこともあるからね。2時間半で終わらせてよ。店に影響するから」と笑わせる。
あと一歩で優勝を逃した92年に9勝を挙げ、亀山努、新庄剛志らと共に若虎ブームを牽引した中込さんが、この場所に店を構えて7年。気取りのない店主の人柄もあり阪神以外の野球ファンも観戦帰りに足を運ぶ。かつての仲間たちも家族連れで訪れ、オフには桧山進次郎氏らOBが協力してくれてのファンの集いも開催している。
はた目には理想的な営業環境に見えるが、開店にあたっては複雑な思いもあったという。「台湾でああいうことがあったから甲子園近辺で店をやることに抵抗もあった。でも、生きるために割り切った」。中込さんは2010年に巻き込まれた台湾球界での八百長事件について触れた。
当時の中込さんは関与を否定しながらも、家族を養うため、罪を認めて帰国する道を選んだ。そこからの再出発。「別にそんなことは関係ないっていう人が店に集まってきてくれた。ありがたかった」と振り返る。
店は大みそかと元日を除いて無休。それは「家族に迷惑をかけてきたし、5年は休みなしでやる」という決意の表れだった。開店当初は投手の命である右手をスライサーで切り救急車のお世話になることもあったが、妻の美加さん、長女の杏樹さんら家族に支えられて店を軌道に乗せた。家族と過ごす穏やかな日常を「平々凡々が一番いい」とかみしめる。
今年の夏、甲子園は100回大会の高校野球で沸き、店も「5時、7時、9時と3つの波があった」という盛況だった。そして迎えた秋。阪神はV逸が決定し、05年以来の優勝は来季以降の宿題となった。中込さんは古巣に愛情を込めてエールを送る。
「店をやってるうちに優勝して繁盛させてほしいよ。店をやるのが嫌になるぐらい忙しくさせてほしいね」(デイリースポーツ・若林みどり)
◆中込伸(なかごみ・しん)1970年2月16日生まれ。山梨県出身。甲府工から神崎工を経て1998年のドラフト1位で阪神入り。182試合に登板し41勝62敗。防御率3・74。阪神退団後、2002年から台湾プロ野球の兄弟に所属。05年に引退。08年から兄弟で監督、コーチを務めた。2011年12月から炭火焼肉「伸」を経営。