「師匠」と「兄さん」の境界線
テレビのバラエティー番組などで、芸人が先輩を「兄さん」「姉さん」と呼んでいるのをみかける。さらに「師匠」と呼んでいる場合があるが、この敬称にはどのような違いがあるのか。ハイヒール・リンゴが入門したときに教えてもらったという、芸人の世界の敬称ルールを明かした。
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芸人は先輩方を「師匠」「兄さん(姉さん)」と呼びます。その他には「先生」の敬称もあって、夢路いとし・喜味こいしさん、横山ノックさん、上岡龍太郎さんは「先生」でした。
私がこの世界に入った時に、先輩方に「あんたらが入った時点で、弟子が付いている人は『師匠』やで」と教えてもらったんです。だから私とモモコの間では、それが基準になっています。
以前、私が入った時にはお弟子さんがいなかったので「兄さん」と呼んでいた方がいました。その兄さんに、私の先輩が弟子入りされたんです。でも私は「兄さん」と呼び続けました。するとその方が「お前の先輩が俺を師匠と呼ぶのに、お前は何で兄さんなんや」と注意されたことがあったんですが、「一度呼び始めたらその敬称は変えたらあかん」と先輩方に教えて頂いたので、その説明をしたら納得して頂きました。先輩方には「『兄さん』と呼んでたけど『師匠』と呼ぶくらいのキャリアと腕前があるから師匠と呼び変えようとなったら、それは相手を値踏みしていたことになる。だから1回呼び始めたら、それを続けなさい」と言われてたんです。「変えたらあかん」には意味があるんですね。
でも敬称は弟子の有無で決められているのではなくて、他の事務所では年齢で考えているところもある。共通ルールがないから難しい。私も聞かれたらいまの話を答えるけど、吉本内でも全員が同じじゃない。師匠だけど、親しみを込めて「兄さん」と呼んでくれとおっしゃる方もいる。さらに落語家さんも独自のルールがあり、大御所でも「師匠」で「先生」とは呼ばない。ちなみにシルクがオール阪神・巨人の阪神さんを「師匠」と呼んだら「なにが師匠や!年が近いのに師匠と言うな」と怒られたそうです(笑)。
私もたまに「ハイヒール師匠」と言われるんですけど、「えー」ってなる。弟子もいないし、師匠ちゃうと。それにモモコは「姉さん」だけど、私の場合はなぜか「姐さん」という字を当てられて「えっ、私の方が怖いの?」みたいな。記事なんかも「姐」の字で書かれることが多くて、広報やマネジャーが訂正してくれてるみたいなんです。「モモコは“姉さん”なのに」って。実はそれぞれが細やかに気にしてるんですよ(笑)。