ドカベンの甲子園曲は本格派な古関作品
夏の甲子園大会が始まると、昭和の巨匠・古関裕而(こせき・ゆうじ=1989年に90歳で死去)作曲の大会歌「栄冠は君に輝く」が耳に入ってくる。高校野球が好きとか嫌いとかは関係なく、日本の夏を感じさせる名曲だ。
デイリー読者の皆さんには名曲「六甲おろし」の作曲者として、おなじみの古関だが、その一方で読売巨人軍の球団歌である「闘魂こめて」の作曲もこの人。ついでに中日ドラゴンズの初代球団歌である「ドラゴンズの歌」もそうだ。
もっと言えば早稲田大学の応援歌(紺碧の空)を作りつつも、慶應大学の応援歌(我ぞ覇者)も作曲。戦時中は「露営の歌」や「若鷲の歌(予科練の歌)」などの軍歌、戦後は「鐘の鳴る丘(とんがり帽子)」や「君の名は」といった人気ラジオ番組のテーマ曲を作り、「イヨマンテの夜」もあれば「モスラの歌」もそう。1964年東京五輪の「オリンピック・マーチ」も古関作品だ。NHKラジオ「ひるのいこい」のテーマ音楽は現在も現役使用中だ。
そんな古関に「六甲おろし」と「栄冠は君に輝く」に次ぐ、もう1つの甲子園ソングがあることをご存知だろうか?
それはテレビアニメ「ドカベン」(1976~79年)の挿入歌として作られた「ああ甲子園」という名曲。ドカベンの音楽は主題歌&挿入歌含め、菊池俊輔作曲、保富康午作詞のコンビで作られているが、「ああ甲子園」のみは作詞こそ保富だが、作曲はあえて古関に依頼し、菊池が編曲に回る異色の編成なのだ。
歌詞の軸は甲子園の土。母校の校庭から憧れの甲子園へとつながる土を称え「♪踏みしめよう この土を 数知れぬ仲間がみんな 憧れて夢に見てきた これが 甲子園の土なんだ」と格調高い男性コーラスで歌われる。いわば高校野球版の「大地讃頌(さんしょう)」なのだ。山田太郎ら明訓高校の面々が初の甲子園に向けて出発するシーンから使用され初め、最終回のラストシーンでも弁慶高校に敗れた翌朝から、宿泊する芦屋旅館から甲子園球場まで、明るく希望に燃えた表情でランニングする明訓高野球部のバックで効果的に使用されていた。
この曲は長きにわたる古関の音楽活動において、おそらく最末期の作品になるはず。単にアニメ作品の挿入歌として埋もれさせておくのはもったいない。何らかの手段で世に復活して欲しい甲子園ソングだ。