デイリースポーツのボクシング評論「拳心論」で健筆を振るう元世界３階級制覇王者、長谷川穂積氏（３７）が、昨年８月に１３度目の防衛戦で敗れた前ＷＢＣ世界バンタム級王者、山中慎介（３５）＝帝拳＝のリベンジへかける思いを聞いた。山中は３月１日、両国国技館で同級王者ルイス・ネリ（２３）＝メキシコ＝にダイレクト再戦で挑戦する。今回、盟友との本音トークでは進退への思いにも迫った。

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　長谷川「この試合が終わった後のことは、現時点で考えている？終わってみないとわからないと思うけど」

　山中「口にするようなことでもないんですけど、この調整にすべてをかけているんで、これで終わりにするっていう気持ちの方が大きすぎます。調整のつらさって口にするようなものじゃないんですけど…」

　長谷川「勝ってやめるのもかっこいいけど、僕の場合は（３階級制覇を達成して最後の試合となった一昨年の）９月１６日の後のビジョンを考えていなかった。だから、勝つ前提で、勝ったらもう少し試合してもいいかな、くらいの気持ちの余力も残してほしいな」

　山中「プランを立てろってよく言われてますよね」

　長谷川「オレはそれで失敗も成功もしたから。（初戴冠の）ウィラポンに勝った時にはジムに行って最初に、もうボクシングやめたいって言うた。王者になることしか頭になかったから、防衛とかどうでもいいって」

　山中「周りの期待もありますけど、それも含めて今後の自分を考える余裕がない。今までも一戦一戦やってきたというのが正直な気持ちで、今はこの１試合に集中している。これは（進退を）にごしているわけでないんです」

　長谷川「確かにね。『これに勝って３回防衛しますわ』なんて言うてたら絶対負けるよね」

　山中「小学校の頃からニンジンをぶら下げるといい結果にならなかったんです。それがモチベーションにならないんです」

　長谷川「これは勝手なこちらの思いやねんけど。圧倒的に勝ったら、なんかやめるのもったいない」

　山中「いつも試合前に神社にお参りに行くんですけど、今回ほどお願いすることはないと思います。『頼むから！』ってめっちゃお願いすると思う」

　長谷川「この一戦に懸けて勝った後は空っぽになるからな。僕も９月１６日がそうやった。（モチベーションの維持の難しさは）長く防衛して感じることかもしれないけど」

　山中「今考えたらモチベーションを保つのはつらかった。今は全然違いますもん。記録がかかるからこそ注目されてたのはあったんでありがたかったけど」

　長谷川「７回目くらいから（モチベーションは）お金だけになったんだよね。僕は２回目くらいから（笑）」

　山中「それでよくウィラポンに勝てましたね。僕は５回目くらいからです（笑）」

　長谷川「でも、次の方が注目度は高いからね。いろいろと問題があったのもあるけど（新春放送のバラエティ番組）『はじめてのおつかい』を見た人が、あの番組（の心配そうな顔）とのギャップを感じてるから。でも、自分が負けた時に子供が下向いているのは（心に）くるよね。自分も息子が泣いていたのを見て力になった」

　山中「あれを見せられたら一番きますね。家族として自分が支えているという反面、支えられている、力をもらっていると感じているんで」

　長谷川「奥さんもグッとくるけど、子供はくるね。オレがやめた理由の一つに、子供がもういいかなって言ったことがある。勝った試合より負けた試合の印象が（子供には）大きい」（以下、３に続く）