デイリースポーツのボクシング評論「拳心論」で健筆を振るう元世界３階級制覇王者、長谷川穂積氏（３７）が、昨年８月に１３度目の防衛戦で敗れた前ＷＢＣ世界バンタム級王者、山中慎介（３５）＝帝拳＝のリベンジへかける思いを聞いた。山中は３月１日、両国国技館で同級王者ルイス・ネリ（２３）＝メキシコ＝にダイレクト再戦で挑戦する。同級王座を１０度防衛した長谷川氏と１２度防衛した山中。最終回となる今回は安定王者だけがわかる長期防衛の苦しさについての本音を語り合った。

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　長谷川「改めてだけど山中君はすばらしいよね。１２回防衛しているのにまったく変わらない。少しは変わってもいいんちゃうかなっていうくらい」

　山中「長谷川さんはどうやったんですか？」

　長谷川「オレ、１０回防衛の時は足テーブルに乗せて飯食っててん。それで負けたから（笑）。でも（自分を保つのは）難しい。１２回も防衛したら勘違いするのが当たり前。すごいことなんやから。でも、試合になったら違う一面が見える」

　山中「逆に３、４、５回（防衛）くらいの時にはなりかけてました。でも、ジムや後援会に厳しくしてくれる人がいて、ほんとに人に恵まれたなって思います。一人やったら絶対にいばってました」

　長谷川「ほんとに人との縁は大事。おごりの心がないから１２回防衛できたと思う。また、山中慎介という人は運がいい。１２回防衛は実力だけど、人に恵まれたのも運がいいと思うし、今回の再戦も。タオル（投入による敗戦）も（ネリの）ドーピングもなく、普通に負けていたらダイレクト再戦って難しい。世間の後押しもあってダイレクトに決まるっていう運の強さもある。でも、ここから先の勝つか負けるかは実力だよね」

　山中「でも、長谷川さんと意見が一致しているのがうれしかったですね。マス（ボクシング）の後に話している感覚が合っていることで、すごい勢いがついたというか。もちろん実践も収穫でしたけど、また新たに乗っていけるきっかけになったのが一番あります。だからみんなが長谷川さんを慕うんですよね。練習以外では、ためになることはあまり話されないんですけど（笑）。勝手に人の家にも来るし」

　長谷川「何百回も言いうけど、悔いなくね。一生懸命練習して最高のコンディションつくって負けたらしゃあないもん。その状態をつくってほしい。勝つか負けるかは、その時のコンディションや強さはあるけど、その状態をつくれんかったら話にならへん。悔いなくやってほしいね」

　山中「一日一日を大事にってありきたりですけど、この試合が決まってから、一日一日をこれだけ大事にしているのは初めて。充実感はあるんです」

　長谷川「わかるわ。なんか似てる、９月１６日の僕に。特に僕は（左手が）折れていたから、その中でどういう練習ができるか、明日になったらちょっとマシになってないかなって一日一日を余計にね」

　山中「その時点で自分には勝てているんですよね」

　長谷川「自分とは違うけど、でも同じような感じかな。覚悟を持ったら勝てると思う。試合に一番大事なのは覚悟。一日一日を大事に過ごせるのっていいなあ。うらやましいって思う」

　山中「もうちょっと一日がほしいですよね」

　長谷川「そうそう、僕もそう思ってたよ！」