大橋会長は怪物・井上の6階級制覇視野
「ボクシング10回戦」(16日、後楽園ホール)
史上初の高校生アマチュア7冠を達成した日本ライトフライ級6位・井上尚弥(20)=大橋=が16日、同級1位・佐野友樹(31)=松田=を相手にプロデビュー3戦目に臨む。過去2戦はKOで圧勝。タイトル戦でないにもかかわらず、ゴールデンタイムに全国生中継(フジ・関西系19・00~)されるという異例の注目を集める。まだ10日に20歳になったばかりの若者が、なぜ“怪物”と呼ばれるのか。所属ジムの大橋秀行会長(48)、2階級制覇王者・八重樫東(30)=大橋=の証言から、その実力に迫る。
初めて井上を見たときの印象を、大橋会長はこう振り返る。
「確か、彼が中学1年生のころの全国大会だったかな。まだ体は小さいのに、対戦相手を右のクロス一発でノックアウトした。さらに、相手が担架で運ばれて行ったのを見て、これはすごいと思った」
初めから怪物級のインパクトを与えていた。大橋会長が驚いたのは、それだけではない。
「その後、彼はウチに出げいこに来るようになったが、普通に八重樫とスパーリングをしていた。中学生がプロとやるなんて、危なくて、普通じゃあり得ない。そういうのを見ていたから、後に高校生7冠になっても全然驚かなかった」
八重樫は8日にWBC世界フライ級王座を奪取し、WBA世界ミニマム級に続く世界2階級制覇を達成。井上は10歳年上の偉大な選手と中学生のころから渡り合っていたのだ。7冠だから“怪物”なのではなく、“怪物”に7冠がついてきたということか。
では、何がすごいのか。大橋会長は総合力という。
「パンチ、スピード、瞬発力…、それぞれが抜きんでている。ここまでまとまっている選手は見たことがない。さらにハートも強い。ボクサーは真面目か、才能があるか、大きく2つに分かれる。才能がある選手は遊んでしまったりするけれど、彼は2つとも飛び抜けている」
つまり、心技体すべてがすごい。ならば、どこまでたどり着けるのだろうか。記者は失礼にも「先日『井上なら6階級制覇も…』と言われてましたよね?」と笑いながら聞いてしまったのだが、大橋会長は真面目な表情でこう答えた。
「今笑ったでしょ?普通はそうなるけれども、いずれ、その笑いは消える。なるほどな、と思うようになる」
八重樫にも話を聞いた。
「全部すごいですよ」
評価は大橋会長と同じ。だが、井上と何度もスパーリングを行い、その力を肌で知る男の立場から、もう一歩踏み込んで説明した。
「普通の選手との違いは集中力ですかね。彼は性格が真面目で、無駄なパンチが一つもなく、ここは打たせていいとか、流していいという感じのものがない。また、研究熱心で、海外の一流選手を模倣するのもうまい。言われたことへの反応もいい。それを実行できる体の能力があるからだと思います」
心にスキがない。学習能力が高い。“怪物”を形成した要因はそこにあるのだろうか。八重樫も最後にこう言った。
「日本や東洋とかのレベルじゃない。世界を獲って当たり前で、知らない人はすごいと思うかもしれないですが、力を知ってる人なら驚かない。もしかしたら、ものすごいインパクトのある勝ち方で世界を獲るかもしれないですよ」