“怪物”井上、左手1本で3戦連続KO
「ボクシング10回戦」(16日、後楽園ホール)
史上初の高校生アマチュア7冠を達成し“怪物”の異名を取る日本ライトフライ級6位・井上尚弥(20)=大橋=が同級1位・佐野友樹(31)=松田=を10回TKOで下し、デビュー3連続KO勝ちを飾った。ノンタイトル戦ながらゴールデンタイムに全国生中継されるという異例の注目の中で、井上は序盤に右拳を痛めながらも、左だけで2度のダウンを奪うなど圧倒し、最終10回に試合を決めた。
初の試練にも“怪物”は動じなかった。井上は開始から日本ランク1位の佐野を圧倒。切れ味鋭いパンチを浴びせ、2回に左フックでダウンを奪う。だが、その後に右拳を負傷。「3ラウンドあたりだと思う」と話すように、そこから明らかに右の手数が減った。
それでも4回に左フックからの連打でダウンを奪うなど、試合を支配。佐野も両目上を切り、血まみれになりながらも粘りを見せた。そして判定も見えた最終10回、井上は連打を仕掛け、レフェリーストップを呼んだ。
思わぬアクシデントを乗り越えての勝利に、井上は「(ゴールデンタイム全国生中継を)気にしなくてできたと思う。右を打てる状況じゃなかったので、左だけで試合をコントロールしようと思った」と満足顔。所属ジムの大橋会長は「ある意味、試練だった。だが、結果的に長いラウンドを戦ってKOできたのはかけがえのない経験」と、大きな収穫を強調した。
アマチュアは3回戦制で、プロ初戦は4回KO、2戦目は1回KOと、井上は本番で長丁場をこなしておらずスタミナ強化に取り組んだ。2月に約2週間、神奈川県茅ケ崎市の海岸に通い走り込みを敢行。スパーリングも10ラウンド3本、12ラウンド2本の長丁場をこなした。その成果は十分に表れた。
右拳はデビュー戦で痛めた時より腫れがひどい状態。その回復具合にもよるが、世界奪取の日本最短記録(7戦目)更新が現実味を帯びてきた。日本1位に圧勝したことで、代わりに同位に就き、指名挑戦者の有力候補になる可能性がある。また現在の日本同級王者・田口良一(ワタナベ)は王座決定戦で奪取したため、初防衛戦は指名試合が義務づけられる。井上が次戦で日本王座に挑戦できる可能性があり、次の5戦目で世界ランク入りすれば、6戦目での世界挑戦もありうる。
井上は「田口選手とやりたい」。大橋会長も「田口選手もやりたいそうなので、受けてほしい」と大いに乗り気。怪物の足音はどんどん大きくなる。