ヘビー級へ…石田順裕の大増量作戦!
「デイリー後援・ボクシング8回戦」(4月30日、後楽園ホール)
減量ならぬ増量に苦しむボクサーがいる。元WBA世界スーパーウエルター級暫定王者・石田順裕(38)=グリーンツダ。日本ヘビー級王者・藤本京太郎(角海老宝石)との賞金1000万円マッチに臨むため、本来のミドル級(69・853~72・575キロ)から4階級上のヘビー級(90・719キロ超)へ約20キロもの体重増に取り組んでいる。1日5食の食事にボディービルダー仕様の過酷な筋肉増強トレ。それでも「やせる」と嘆く男の一日に密着した。
変わらない体重計の目盛りに、何度心が折れかけたことか…。「食べればいいと思っていたけど簡単じゃなかった。減量と同じくらいつらい」と石田。減量が宿命付けられたボクサーにとって、増量は未知の世界。想像以上に過酷だった。
石田の一日に胃が休まる暇はない。朝6時に起床し、1時間のロードワークを終えると食卓にはいきなり“重量級”の肉。時にはステーキがドーンと置かれている。大量の野菜、スープにお茶碗2杯のご飯を平らげる。
午前11時には前夜の鍋の残りに麺など2度目の朝飯。腹などすいていないが、次の獲物はやってくる。午後1時、特盛りのカレーや牛丼など昼食を気力で倒した。
午後3時、筋肉増強のためのジムへ。トレーニング後、おにぎり2個をペロリ。その後、グリーンツダジムで練習を終えると午後10時過ぎに帰宅する。
5食目の晩飯も強敵だ。メーンの肉、魚、大量の野菜とともにお茶碗2杯のご飯。フルラウンドを終了し、ようやく就寝。これ以外にも時間があれば、ゆで卵、菓子パンを口に流し込んでいる。
ミドル級時代は1日3食、1食にご飯はお茶碗1杯程度。もともと「食は太くない」という。昨年11月にヘビー級転向を決意してから4カ月弱、フードファイトは“KO負け”の連続だった。
「食ったなあ、と思ったら翌日にはトイレに5回」。腹の弱い体質に抜群の代謝の良さで「少し油断すればやせている」と、一進一退を続けた。それでも11月に81キロだった体重は88キロ。目標まであと2キロまできた。
ただ単にヘビー級の体重にするなら、脂肪分を摂取して寝ていればいい。だが相手は4階級も上の日本王者。「スピードで勝負する。でもパンチを打っても効かないと分かれば、出てこられてやられるだけ」とスピードを殺さず、ヘビー級のパワーを付ける必要がある。
そのため、食事に加えてボディービルダー御用達の大阪市西淀川区の「ジャングルジムスポーツ」に通っている。「ヘビーデューティー・トレーニング」と呼ばれる筋肉増強トレーニングは、肉体の限界ギリギリの負荷をかけて追い込む。
一日わずか40分ながら、過酷なメニューは驚きの効果を生んだ。「全身が変わってきた」と鏡の前で筋肉美にウットリするほど、石田の肉体は改造されてきた。
支える家族も大変だ。麻衣夫人(34)は朝6時過ぎに起き、5品を準備する。「脂肪でなくタンパク質を摂るためには、量を食べないと」と肉は脂身、皮をカットして調理。知人の栄養士に聞き、トマトベースの豆、野菜、肉の入った特製の「アスリートスープ」を毎日、大量につくっている。
以前に比べ、「食費は倍」の月10万円。3人の子供がおり、一番下の男の子はまだ1歳。子供の世話に追われながら翌日の仕込みをし、毎日寝るのは日付が変わってからだ。
かつてはファッションモデルもこなしたスレンダーなイケメン夫の変貌ぶりに、夫人も複雑。「隣で寝ていたら何だ、この大木はと思う。子供と遊んでいても、片足乗せただけで子供が潰れる」。それでも「日本王者にならないと意味がない」と夫の夢をどこまでもアシスト。「食え~、食え~」と、苦しむ夫の尻をたたいている。
石田はこの挑戦を「ボクサーの夢」と言う。「パワーが最高の状態で試合したいとボクサーはみんな思っている」。さらに意地もある。査定試合まで行いながらヘビー級転級を日本ボクシングコミッション(JBC)に認められず、藤本戦はノンタイトル戦になった。「ボクシングをなめるな」という声は石田も耳にする。勝って元世界王者の実力を見せつけたい思いだ。
スパーリングのため18日に渡米。かつて主戦場としたロスで、1カ月の予定で合宿を行っている。「現役最後にアホなことをしたい」という石田。日本ボクシング史に前代も後代も未聞の20キロ増量ボクサーが刻まれるのは間違いない。