１９歳で公認会計士試験に合格し、今年９月にプロボクサーライセンスを取得した異色の女子大生が１８日に東京・後楽園ホールでデビューする。対照的な二兎（にと）を追い二兎を得た“闘う公認会計士の卵”、中央大学商学部３年在学中の高木千愛（ちあき、２１）＝ワタナベ＝の素顔に迫った。

　人は見かけによらないとはよく言ったものだ。東京・五反田のワタナベジムに現れた高木は、色白で小柄な、“女の子”だった。開口一番「女子大生っぽくなくてごめんなさい。中学生？とか言われるんです」と笑った。

　昨年、２年生で超難関の公認会計士試験に合格した。１９歳は年度最年少だった。在学中に取得すれば「早い」とされるこの資格を未成年で取るのは異例の快挙。大手監査法人への就職も決まり、そこで２年の実務を経験して公認会計士として独立できる。前途洋々の身だ。

　だが、彼女の内部には公認会計士と変わらない重さで「ボクシング」が存在した。子供のころ、兄が見ていたアニメ『はじめの一歩』を見たのが原体験。中学２年生になると「ボクシングをやりたい気持ちが芽ばえた」という。

　当時、母親に「ボクシングが好き」と話したことがある。「“は？”って反応でした。男兄弟ばかりなので『女の子らしくなりなさい！』と言われた」。それ以来、家族には一言もボクシングの話はしていない。

　未成年者がプロテストを受けるには親権者の承諾が条件。２０歳になる日を待つ一方、受験勉強も猛烈に取り組んだ。「会計士試験に受からないとどっちもおろそかになっちゃう。ボクシングをやるために、早く受かんなきゃいけない」と、自分を追い込んだ。

　昨秋から大学に近いジムに通い、３月にワタナベジムに移り、引っ越した。ある日、大学の広報誌に載った娘の記事でボクシングをしていると知った母から連絡があった。

　「ＬＩＮＥで長々と怒られました。私も長々と説得した。やっちゃあかんの？って聞いたら何も言わなかった。暗黙の了解だと思う。でも、プロを目指しているとは言えなかった。全力で止められたら絶対に説得できない」。生まれる前に両親が離婚。一人で育ててもらった母の言葉は重い。

　だから、デビュー戦も家族に知らせていない。「何かの拍子でバレたらまた説得します」と笑うが、すぐに「ボクシングって素晴らしいスポーツなのに、親でも分かってくれないのが嫌」と表情がかげった。

　家族ですら理解してくれない女性ボクサーのイメージを変えてみたい。「日本に女子の世界王者はたくさんいるのに知っている人は少ない。自分で言うのも何だけど、会計士の資格を持っていて、真逆のボクシングもやるって話題性があると思う。イメージをちょっと払しょくできるんじゃないか」－そんな思いも湧いてきている。

　ロードワークが過ぎて疲労骨折し、宅配便のバイトに変えたこともある。「疲れれば走る距離が減るかと思ったけど、結局走って意味がなかった」という頑張り屋。ジムには週６回通っている。渡辺均会長は「ユニークでかわいいですね。頑張っていますよ。デビュー戦は期待しています」と目を細める。

　なぜボクシングなのかを改めて問うと、「自分にないもの、日常じゃあり得ないものへの憧れかな」と、首をかしげながら答えた。

　「青春」「全力投球」－そんな言葉がよく似合う人だ。