棚橋誓った「プ女子現象」終わらせない
プロレス界に今、かつてない追い風が吹いている。特に注目されているのがプロレス好きの女子、略して「プ女子」だ。新日本プロレスでは会場の3~4割を女性が占め、メディアでもプロレス女子特集が組まれるなど、14年の流行語大賞候補にもなった「カープ女子」に迫る勢いだ。そこで今回は女子人気の高いエース棚橋弘至に“プ女子現象”について直撃した。
プロレス会場に異変が起こっている。客席を見渡せば、お気に入りのプロレスラー(推しメン)のTシャツに身を包んだ女性が一眼レフのカメラを構え、選手がポーズを決めるたびにシャッター音を響かせる。男たちの野太い怒声が飛び交い、マニアックなイメージがあった従来のプロレス会場は、すっかり様変わり。まるでアイドル歌手のライブ会場のような雰囲気さえ感じさせる。
新日本プロレスの神谷広報は「80年代に1割だった女性客が、現在では3~4割を占めます。ファンクラブ会員も4割が女性の方です」と話す。公式グッズも女性受けも意識して洗練されたデザインのものを増やし、14年度は前年比120%の売り上げを記録した。
今の女子人気は棚橋弘至、中邑真輔、オカダカズチカ、飯伏幸太らイケメン選手がけん引。昨年12月には男子では異例のグラビア写真集も発売された。
こうしたプ女子現象を受け、昨年末からはテレビや週刊誌、さらには経済誌や女性誌やファッション誌などの媒体もプロレス特集を組むなど、ちょっとしたブームが巻き起こっている。神谷広報は「昨年12月にNHKの『あさイチ』でプロレス女子を特集してもらって一気に反響が増えました」と振り返る。
好調が続く新日本プロレスのエースで“100年に1人の逸材”棚橋弘至に、プ女子現象について直撃した。
「すっごい奇跡的な確率で、今の新日本のトップにビジュアルがいい選手がそろいました!オカダなんて他のスポーツやってても通用したと思うし」
ただ今の状況について棚橋は、試合や営業の地道な努力の積み重ねの結果だと話す。90年代の終わりから2000年に入ると長州、藤波、武藤、蝶野ら一時代を築いた選手が次々と退団。団体の再興を目指し、棚橋が行ってきたのは徹底的なイメージ改革だ。
「怖い、痛そう、血が出るといったプロレスのイメージを払拭(ふっしょく)した。体形もメタボじゃなくアスリートらしい体つきにして、競技として見てもらおうと」。後輩レスラーにもプロの心得を説く。「ただでさえいかついので『普通の人より丁寧に話しなさい』とか。見られる職業として移動中の身だしなみも考えます。昔のレスラーってバギーパンツにタンクトップって感じだったので」
長く続いたプロレス冬の時代も今となっては追い風の一因になっているという。「最近の子は猪木さんも馬場さんも知らない。その分、先入観を壊す手間がいらないので、僕らが彼女たちにとってのプロレスになる」
ただ、プロ野球やJリーグと比べて、プロレスは市民権を得たとは言い難い。だから棚橋もブームにも浮かれる様子はない。
「ちょっと人気が出たからって地道な努力をやめちゃいけない。筋肉と一緒ですよ!明日急に結果が出るわけではないけど、1年続ければ必ず成果出るじゃないですか。大事なのは継続すること」
“逸材”の見事にビルドアップされた肉体と同じように、プ女子現象を一過性で終わらせないことが今後の大きな課題だ。