和田まどか“矢沢魂”を胸にリオ目指す
セレブの子女らが集う兵庫県芦屋市の芦屋大で、経済的理由から大学構内に住み込み、2016年リオデジャネイロ五輪を目指す女子ボクサーがいる。昨年11月に韓国で開かれた世界選手権のライトフライ級で3位に入り、日本女子初のメダルを獲得した和田まどか(20)だ。日本女子のエースは、心酔するロック界のカリスマ・矢沢永吉(65)のように、「金」まで“成り上がる”!!
高級住宅街にある芦屋大は、眼下に阪神間の街を見下ろす。駐車場にはベンツ、BMWなど、学生の通学用外車が並ぶ。関西屈指のセレブ大学だ。その構内に和田は入学時から住み込んでいる。
住まいは、無償で借りる元職員用で、6畳の部屋は風呂・トイレ付き。広大な構内で、1人で過ごす夜は「物音が怖い」と言う。朝のロードワークではイノシシに出くわすこともたびたびだ。
横浜市出身で、実家は自営業。弟2人は育ち盛りで、実家から送られる食料と、わずかな小遣いでやりくりする。自炊して、おにぎりを冷蔵庫にストックしている。
「ほとんどお金は使わない」というハングリーさを持つ。月曜日から金曜日は勉学と練習にいそしみ、休日の日曜日に「昼まで寝て銭湯でリフレッシュ」することが楽しみ。「親に言ったらお金をもらえるって、私にはありえない。でも、うらやましくはない。私には熱中することがあるから」と、華やかなキャンパスライフは眼中にない。
身一つで道を切り開いた。小学2年生で空手を始め、「意地でも倒れなかった」と、根性で数々の大会を制した。神奈川・田奈高2年時、自宅近所のファイティング原田ジムをのぞき、空手にはない「顔面攻撃」に魅了された。
高校2年生の2月、初出場した全日本選手権で3位に入り、才能が関係者の目に止まった。「育てたら強くなる」と将来性を買われ、世界選手権やアジア選手権に派遣された。競技開始時、元世界フライ&バンタム級王者のファイティング原田氏を知らず「あのおじいちゃん、すごいの?」と言い放った逸材は、日の丸ジャージーを手に「人生が変わった」と実感した。
連盟のジュニア強化委員長も務める樋山茂監督に誘われ、芦屋大に入学した。「格闘技の勘、間合い、スピード、すべての能力が高い」(樋山監督)。昨年11月の世界選手権で日本女子初の銅メダルを獲得した。
反骨心の支えはロック界のカリスマ、矢沢永吉だ。幼少から父の影響で歌詞を口ずさみ、気付けば“永ちゃん信者”となった。バイブルは、名著「成りあがり」。試合では「気合が入る」と「E・YAZAWA」の赤いタオルを欠かさない。
「1回のどん底ぶりがすごい。それが2回、3回ある。それでも永ちゃんはずっと永ちゃんのまま。自分も少し負けたくらいで落ち込んでいられない」と矢沢魂を胸に刻む。
もっとも、日本女子初の五輪出場は簡単ではない。女子はわずか3階級(フライ、ライト、ミドル)で、和田はライトフライ級(約49キロ)のため、1階級上のフライ級(約51キロ)に上げる必要がある。12月の全日本選手権で優勝して、来春の世界選手権で五輪切符をかける。
「視野にあるのは日本じゃない。全日本で苦戦していたら、五輪とか言っていられない。獲って当たり前と思われる中、優勝」。悩みは食が細く、体重が増えないことだ。脱臼癖のある左肩の筋力強化と増量のため、とにかく食べて肉体を改造することが今のテーマだ。
「五輪でメダルを取ったら永ちゃんに会えるかな?」。五輪金メダルへ、20歳の成り上がりは止まらないHa~Ha!