科学トレで進化続ける34歳長谷川穂積

 現役続行を表明したボクシングの元世界2階級王者、長谷川穂積(34)=真正=が、新たな試みに挑んでいる。スピード感あふれるファイティングスタイルが身上の元王者が、否定的だった科学トレーニングを導入。あらためてボクシングにおける「スピード」「パワー」とは何かを追求する姿に迫った。

 元チャンプの肉体は進化していた。10月中旬、大阪・豊中市のトレーニングジム「B2ファクトリー」に現れた長谷川は、身長が少し伸びているように見えた。「ボクサーは(前かがみになるため)猫背が多いが、姿勢が良くなった。腰が強くなったから」と長谷川は自己分析した。

 約1カ月半前にトレーニングをスタートした時には腰関節が硬く、背筋トレーニングがほとんどできなかった。しかし、腰周りの強化で背筋が伸び、下半身の可動域も良化。背が高くなったように見えたのはそのせいだ。

 柔軟になった下半身はパンチを打つ際のステップインをより速く、大きくした。試合ではより鋭く相手の懐に踏み込めるはずだ。

 ボクサーは減量があるため余分な筋肉をつけたくない。「ボクシングで使う筋肉はボクシングで鍛える」と考えることが多い。長谷川もウエートや科学トレーニングには「反対派だった」と言う。

 一方で「15年もボクサーをやっていると、これまで以上にしんどいことを体がしようとしない。ボクシング(の練習)だけでは限界がある」とも感じていた。そんな中、科学トレーニングによる自身の進化を発見した。

 きっかけがあった。今年5月、1年ぶりの再起戦で29戦無敗のオラシオ・ガルシア(メキシコ)に大差判定勝ち。試合直前に右足首じん帯を断裂しながら力を出し切り、達成感で一時は引退を視野に入れた。しかし、治療で訪れた同ジムで早川怜代表(34)の理論で「まだ強くなれる」と確信。12月11日の再起第2戦(神戸市中央体育館)を決意した。

 松山英樹ら多くのゴルファーと契約してきた早川代表だが、ボクサーとの契約は初。試行錯誤の中でボクシングに不可欠なスピードとパワーを強化するだけではなく、いかにそれを持続するかを目指している。3分12ラウンド、約50分の戦いはペース配分するマラソンのイメージ。これを「50メートル走。MAXの力で何本も走れるか」(早川代表)に変える。最速で最大のパワーをラウンドごとに出し続けるエンジンをつくる。

 メニューはエアロバイクなど機器を使うものから、自重トレ、反復横跳びなどを細かく組み合わせる。筋肉を大きくしないために軽い負荷で回数を多くし、最速スピード、最大パワーにいかに早く持っていくかを目指す。

 練習間のインターバルは10秒程度。疲労で足に乳酸がたまり「内側から刺すような痛みがある。こんな経験は今までなかった」と長谷川は苦痛に顔をゆがめる。練習日は「めちゃ、ゆううつ」と言うほど自分を追い込んでいる。

 実は、現役続行の一番のモチベーションは王座再奪取ではない。むしろ、最も追求しているのは「どこまで自分が強くなれるのか」。今後はスパーリングが本格化する。35歳を前に「進化した自分を見たい」と長谷川。「僕が結果を出しますよ」。求道者さながらに、自分の肉体に向き合い続けている。

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