世界ボクシング評議会（ＷＢＣ）は１５日の世界バンタム級タイトルマッチで山中慎介（３４）＝帝拳＝を破って新王者となったルイス・ネリ（２２）＝メキシコ＝が試合前に行ったドーピング検査で禁止薬物ジルパテロールに陽性反応を示したと２３日、公式サイトで発表した。山中は４回ＴＫＯ負けで王座から陥落し、具志堅用高（本紙評論家）の持つ日本記録の世界王座１３連続防衛に失敗したが、今後の展開次第では、無効試合となる可能性も出てきた。

　山中の世界王座１３連続防衛を阻んだ２２歳のメキシコ人ボクサーに、ドーピング違反疑惑が持ち上がった。ＷＢＣは公式サイトで、試合前に行われたドーピング検査でネリが、禁止薬物のジルパテロールに陽性反応を示したと発表。ボクシング界に衝撃が走った。

　日本ボクシングコミッション（ＪＢＣ）によると、検査は試合まで３週間を切った７月２７日に行われた。ＷＢＣは近年、「クリーン・ボクシング・プログラム」という反ドーピング活動に力を入れており、全階級のチャンピオン、ランキング上位者には試合直後の検査とは別に、試合前の抜き打ち検査を義務付けている。今回の検査も、そうした規定に沿って実施されたものとみられる。

　陽性反応を示したジルパテロールは筋肉増強剤のクレンブテロールに似た性質を持つ薬物で、筋肉を強くするための意図的な摂取が疑われている。現在は陽性反応を示したＡ検体と同時に採取したＢ検体に加え、試合当日の検体を検査中。その結果を踏まえて、ネリ陣営に聴取が行われる見込みだ。

　ただ、ジルパテロールはメキシコや米国の一部では牛を肥大させるための肥料に含まれていることがあり、現地では既に「陽性は薬物で肥育された牛肉を食べたため」という報道が複数出ている。不問に付される可能性も０ではない。

　連絡を受けたＪＢＣの安河内剛事務局長は、「どういう事情で陽性が出たのか。悪質なものなのか、通常の食品から出てしまったものなのか。ＪＢＣも意見を聞かれることになると思います。時間はかかるでしょう」と説明。仮に陽性が確定した場合は「過去の例から言うと無効試合になったケースもありますし、タイトルはく奪もあります」との見方を示した。

　無効試合や王座はく奪となれば、現在進退を保留している山中にも余波が及ぶこと必至だ。王座保持で連続防衛記録が継続となる可能性もあれば、王座を懸けた決定戦への優先出場権が与えられるケースも十分にある。降って湧いた今回のドーピング違反疑惑。その結末から目が離せなくなってきた。