【長谷川穂積の拳心論】「バンタムと言えば井上尚弥」という王者に
「ボクシング・WBA世界バンタム級タイトルマッチ」(25日、大田区総合体育館)
“モンスター”井上尚弥(25)=大橋=が112秒の衝撃KOで日本人5人目、同最速16戦目での世界3階級制覇を達成した。WBA世界バンタム級王者ジェイミー・マクドネル(英国)を1回TKOで撃破。試合後、賞金総額5000万ドル(約55億円)をかけたバンタム級世界最強トーナメント、ワールドボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)への出場と優勝を宣言した。
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【長谷川穂積の拳心論】
力強さもキレもあった井上尚選手は圧巻の勝利だった。普通は階級を上げるとパンチ力が通用しなくなったり防御で耐えられなくなったりするものだが、彼は階級を上げてその強さが増している。バンタム級が最も力を出せる階級なのだろう。
ボクサーの適性階級とは、ナチュラルウエートから減量しても最もパンチ力が乗る体重だ。軽い階級なら当然相手も軽いが、自分の力を最大限発揮できるのはやはり適性階級。それが今の彼にとってはバンタムだ。まだ若くて体が大きくなっている途中なので何年かすれば減量がきつくなる時が来るだろう。でも、しばらくはこの階級で本当に強い井上尚弥が見られる。そう思うと楽しみだ。
3階級制覇はもちろんすごいことなのだが、バンタム級も日本では特別な階級だ。ファイティング原田さん、辰吉丈一郎さん、僕や山中慎介君らがベルトを巻いてきたが、この先何年かで「バンタム級と言えば井上尚弥」と呼ばれるような王者になってほしい。
長期防衛も期待できる。彼はこれまでほとんどパンチをもらったことがなく、ダメージが蓄積していない。つまり、反応速度も長持ちし、強さをたもてる。これも大きな武器だろう。(元世界3階級制覇王者)