【長谷川穂積の拳心論】尚弥のパンチ力は4階級上のライト級、ドネア戦も有利
「ボクシング・WBSS準決勝、IBF世界バンタム級タイトルマッチ」(18日、グラスゴー)
WBA王者の井上尚弥(26)=大橋=がIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(26)=プエルトリコ=を圧巻の2回1分19秒TKOで破り、IBF王座を獲得した。2回に3度のダウンを奪う完勝だった。決勝ではWBAスーパー王者ノニト・ドネア(36)=フィリピン=と対戦する。
◇ ◇
2つのベルトを手にした井上選手だが、ベルトの数より倒しっぷりのすごさで強い印象を残した。力はもう“世界の井上”だ。
2人ともテクニックに優れた似たタイプだったが、井上選手のパンチ力が圧倒的に勝った。彼はスピード、テクニック、防御技術のすべてが10点満点で、パンチ力は満点の5倍の50点くらい。4階級上のライト級並みのパンチ力を持っていると言えばわかりやすいだろうか。同じバンタムの僕からすると「そんなのずるい」と言いたくなる。
現地で見た今回の井上選手は珍しく緊張していた。1回はかなり硬かったが、そこで相手の出方を見てリラックスできたのだろう。2回にKOした左フックは、普通なら相手をぐらつかせる効果的なパンチとなる程度。しかし、あれで倒してしまえるのは100%の全力で打てるからだ。
パンチを全力で打つのは実は難しい。防御面やバランスを考えると8、9割の力で打つことはできても、10割の力で打つことには怖さを伴う。しかし、井上選手は当てたら倒せるという自信があり、ちゅうちょなく打てる。相手に技術があっても、その戦闘スタイルを封じることは困難だ。
加えて、スピードや防御など一つでもスキがあれば相手はそこから活路を開けるが、すべてに穴がなく末恐ろしい限り。今後階級を上げていきパンチ力が通じなくなった時に、初めて苦しい試合を経験するのかもしれない。
次戦の決勝の相手、ドネア選手は豊富なキャリアを持っており、しっかりとした対策が必要だろう。ただ、彼はフライからフェザーまで5階級を制覇しながら、フェザーではパンチ力の壁に阻まれている。ライト級のパンチを持つ井上選手が有利だと見ている。(元世界3階級制覇王者)