今振り返るRIZIN 曙とサップ再戦は消化不良も瞬間最高視聴率マーク
RIZINを振り返る2回目は15年12月31日に行われた旗揚げ戦最終日の後半。
第8試合は、元大相撲横綱の曙太郎と“野獣”ボブ・サップ(米国)の12年ぶりの再戦。「K-1:Dynamite!!」の舞台で対戦した前回は、2人の知名度が絶大だっただけでなく、曙がうつぶせに倒れてピクリとも動かない衝撃的なKO決着だったこともあって、瞬間最高視聴率は裏番組のNHK紅白歌合戦を上回る43・0%を記録した。だが、サップは格闘技で5年以上も勝利がなく、曙はプロレスラーに転向して10年。2人が再び戦うことには、「今さら」などという懐疑的な声が多かった。
前回はK-1ルールだったが、今回は立った状態での投げ技、関節技も認められるシュートボクシングのルールを採用。12年ぶりのゴングが鳴ると大振りのパンチを連打するサップに対し、曙は組み付いてコーナーに押し込み、至近距離での攻撃や立ち関節を狙っていった。
だが、開始1分過ぎに、曙がサップの右フックを浴びて左耳の後ろから出血。これが試合の流れを大きく変えた。そこからドクターチェックと止血、再開を繰り返し、2回47秒、4度目のチェックが入ったところで試合がストップ。大きな見せ場もなく負傷判定となり、3者とも20-18でサップが曙を返り討ちにした。消化不良に終わった一戦は、旗揚げ戦初日の桜庭和志-青木真也戦と同じく時の流れを痛感させ、懐疑的な声を打ち消すことはできなかった。
第9試合は元大相撲大関バルト(エストニア)の総合格闘技デビュー戦。ヒザの故障で大相撲を引退したものの、31歳と若く、身長198センチ体重193キロの恵まれた体格を持ち、榊原信行実行委員長からもRIZINのエースとして期待されていた。
試合前には騒動が起こった。相手の元K-王者ジェロム・レ・バンナ(フランス)が来日せず、試合3日前の公式会見を欠席。翌日にはバンナの欠場は発表され、元K-1王者ピーター・アーツ(オランダ)が代役を務めることになったのだ。
ドタバタに見舞われたが、バルトは巨体を生かしてアーツを何度も倒し、押さえ込む展開で圧倒。大相撲出身とあってスタミナが不安視されたが、3分3回を戦い抜いて3-0の判定で勝利し、幸先よい総合格闘技のスタートを切った。
そして、なんとバンナは同日に行われたIGFの両国国技館大会に登場。これには榊原実行委員長も「びっくしりた」も驚き、「ルールというか契約の守れない人。我々は訴訟をすることになります」と怒りをあらわにするほどだったが、バンナは2年後、RIZINのリングに立つことになる。
第11試合は“400戦無敗の男”ヒクソン・グレイシーの次男クロン・グレイシー(ブラジル)と元女子レスリング世界王者・山本美憂の長男アーセンのサラブレッド対決。打撃で互角に渡り合ったアーセンは、腕ひしぎ十字固めをレスリングテクニックを生かした見事な身のこなしで脱出して観衆を沸かせるなど健闘したが、最後は1回4分57秒、クロンのタコのように絡みつく三角締めに一本負けした。
高い技術と闘志を見せつけた2人のスリリングな戦いは、大会のベストバウトと評価する声も多かった。グレイシー一族のすごみを感じさせたクロンは、父らと同じように日本勢の前に立ちはだかって、RIZINを盛り上げる存在になっていくことを予感させた。
第12試合では、約3年半ぶりに現役復帰した元PRIDEへE級王者エメリヤーエンコ・ヒョードル(ロシア)がシング・心・ジャディブ(インド)にマウントパンチを浴びせて1回3分2秒TKOの完勝。第13試合のメインイベント、ヘビー級トーナメント決勝戦は日本でも活躍した米国の有力団体ベラトールのキング・モー(米国)がイリープロハースカ(チェコ)を1回5分9秒、右フックでKOする貫禄の優勝を果たして旗揚げ大会を締めた。
9年ぶりに大みそかの地上波に帰ってきた総合格闘技はどれだけの人が見たのか。フジテレビ系の中継の視聴率は5・0%(午後7時~午後8時45分)、7・3%(午後8時45分~午後10時30分)、3・7%(午後10時30分~午後23時45分)。同時間帯の民放トップだった日本テレビ系「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!大晦日年越しSP」の17・6%とは大きな差がついた(数字は関東地区、ビデオリサーチ調べ)。
皮肉にも、中継内での瞬間最高視聴率を記録したのは曙-サップ戦。若い力の知名度が昔のスターに及んでいないことが数字で示され、日本の総合格闘技復活はまだ遠いことを感じさせた。とはいえ、始まったことに意味がある。高田延彦とヒクソン・グレイシーの決戦で始まったPRIDEでさえ、地上波ゴールデンタイムで中継されるまで約2年の助走期間があった。そして、RIZINに新たなスターが生まれるまでに、それほど時間はかからなかった。(続く)