今振り返るRIZIN 那須川天心がキックルールで堀口恭司との夢対決制す
RIZINを振り返る9回目は2018年の8月12日・愛知県体育館大会、9月30日・さいたまスーパーアリーナ大会だ。
8月12日は、後の人気者となる男が初参戦した。弟の朝倉海と同じくジ・アウトサイダー出身の朝倉未来だ。第7試合で修斗、戦極、UFCなどに参戦した強豪の日沖発と対戦した。
鋭くパワフルな打撃で優位に試合を進めた未来は、一時は日沖にグラウンドで下から攻められたが脱出。再びスタンディングに戻ると、体を沈めた日沖の顔面を強烈な左のキックで蹴り上げ、倒れたところにパウンドを浴びせて、1回3分45秒TKO勝ちを収めた。未来と海の朝倉兄弟は、ここからRIZINの台風の目となっていく。
そして9月30日。台風接近のため試合順が変更となるアクシデントに見舞われたが、RIZIN史上最多2万7208人もの大観衆を集めた。ここでは、大相撲で西前頭筆頭まで登り詰めながら、無免許運転で追突事故を起こして引退した大砂嵐(エジプト)が総合格闘技デビューを果たした。不祥事による引退とはいえ、大きな故障のない現役バリバリの関取の参戦は榊原信行実行委員長も大きな期待を寄せていたが、それは見事なまでに裏切られる。
米国で元UFCヘビー級王者ジョシュ・バーネットの指導を受けた大砂嵐は、第6試合でおなじみの“野獣”ボブ・サップ(米国)と対戦。開始早々、身長189センチ、体重160キロの恵まれた肉体を生かして、身長200センチ、体重159キロのサップに猛然とパンチのラッシュを仕掛けて右こめかみから出血させるが、その後はにらみ合う展開が続いて1回を終える。続く2回。組み付いて右のすくい投げでテークダウンさせるが、グラウンドでは一日の長があるサップに上に乗られ、防戦一方。ゴングに救われたが、しばらく立ち上がれないほどのスタミナ切れを起こした。
3回に入ると運動量が大幅に落ち、サップの連打におされ、背中を向けて逃げるなどの醜態をさらす。最後は両者が大きく距離を取ってにらみ合う消極的な戦いが続いて試合終了となり、サップの判定勝ち。場内からは笑いももれる凡戦に終わった。さらに翌月の10月には、またも大砂嵐が無免許運転で速度超過をしていた疑いが発覚。RIZINとの契約を解除され、参戦はわずか1試合で終わった。
メインイベントでは、ついに“キックボクシングの神童”那須川天心とRIZINバンタム級トーナメント覇者・堀口恭司の夢対決が実現。最終第13試合から第9試合に前倒しされた戦いは、キックボクシングルールで行われた。キック、総合格闘技ともに無敗の神童と、伝統派空手出身で打撃を得意とするRIZINの軽量級エースは、両者への大声援が会場を二分する中で、緊張感とスピード感あふれる一進一退の攻防を繰り広げた。
1回から両者は積極的。堀口が躍動感あふれる動きから飛び込んでパンチを繰り出せば、那須川は切れ味鋭い左のハイ、ミドルのキックをたたき込んで会場を沸かせた。
スリリングな戦いは2回も続く。那須川の2度のローブローで中断があったが、那須川が逆立ちするかのようなトリッキーな左ハイキックを放てば、堀口も引かずに手数を繰り出し、終盤は激しく打ち合った。
3回に入るとさらに攻防が激化。堀口がワンツーを突き刺せば、那須川はアクロバティックな左の胴回し回転蹴りを2度繰り出すなど積極的に攻め込む。終盤は那須川が左の蹴りを何度もヒットさせるなど優位に立ったところで試合終了。那須川が3-0の判定で勝利した。
試合後は、「人間と戦っているんじゃなくて動物、獣みたいで、一歩間違えると自分がやられるような試合でした」と振り返った那須川。自身の土俵での戦いとはいえRIZINのエースも破り、強すぎて相手がいないと言える存在になりつつあったが、この後、思わぬ強大な敵と戦うことになるのであった。(続く)