施設出身の苗村修悟「あきらめかけた人生」からボクシングへ 坂本会長へ新人王で恩返し
「ボクシング・東日本新人王決勝戦」(20日、後楽園ホール)
前日計量が19日、都内で行われ、全10階級中8階級の16選手がパスした。ライトフライ級は青木勇人(35)=競泳新宿=の棄権により狩俣綾汰(25)=三迫が=不戦勝、ライト級は山本ライアン ジョシュア(27)=ワタナベ=の計量失格により浦川大将(23)=帝拳=が不戦勝となった。
フライ級は苗村修悟(26)=SRS=、宝珠山晃(三迫)ともに50・8キロ。苗村は自身と同じ児童養護施設出身で元東洋太平洋ライト級王者の坂本博之会長への恩返しの勝利を目指す。「親に育てる能力がなかったと思う」と、生まれた時から双子の兄とともに施設に入所。全国の施設を支援する活動を行っている坂本会長と小学校6年の頃に出会ったことでボクシングを志すようになった。
施設にいたころは「人生をあきらめかけていた」という苗村。「施設にいる子どもは荒れるんですよ。親の虐待とか、捨てられたり、いろんな思いを抱えていて。自分がいたときは先輩の““ヤキ”とかがすごかった」という過酷な環境にいたからだ。
そこに施設出身で元プロボクサーの坂本会長が訪れると聞いたときには、「だから、おっかない人が来ると想像していた」という。だが、対面すると「自分の思い描いていた人と全然違っていた。優しくて、堂々としていて、自信に満ちあふれている感じでかっこよかった」と人柄に感銘。そして、ミットを持ってもらい「言いもの持ってるじゃねえか。もしよかったらオレの所へ来い」と声をかけられたことで、「それがすごいうれしかった。いろいろ大変なことがあって、ほめられることもなかったし、ましてや一緒やろうと誘ってくれて、それがきっかけですね」と心を動かされた。
18歳で施設を退所し、20歳で坂本会長のSRSジムに入門。だが、一時期は恋愛をしてボクシングを離れたこともあった。「人を好きになることもなかった。誰かに愛されたいというあこがれがあるじゃないですか。それでそっちの方に行ってしまった」という。
恋人と別れてから再びボクシングに取り組み、19年にプロデビューしてから4戦4勝(4KO)。“平成のKOキング”と呼ばれた坂本会長のようにKOを量産しているが、「あまりKOにこだわりはないですけど、結果として4KOとなっている」と意識はしていない。
相手の宝珠山はアマチュアで13戦を経験している長身のサウスポー。「映像で見た限りではやっぱりアマチュアのボクシング。うまくてスピードもあって」との印象を持ち、「自分はリーチがないので、離れて戦ったら勝負にならない。近寄って距離つぶして戦いたい」と戦いをイメージし、「KOを狙いに行くわけじゃないですけど、倒して勝ちたい」と意気込みを示した。
「プロボクサーとしてみんなに求められる存在になりたい」というのが夢。「人生あきらめちゃう子たちが多いと思うので、自分の頑張り次第でいくらでも人生はいい方向に持って行けると思われる存在になりたい」と、施設の子どもたちを勇気づけることを目指す。