元世界2階級王者・亀田に挑む三宅寛典「かませ犬は百も承知。結果でびっくりさせたい」
5月5日に約2年ぶりの復帰戦(エディオンアリーナ大阪第2競技場)を行うボクシング元世界2階級王者の亀田和毅(29)=3150。その対戦相手を務めるのが広島・ビッグアーム所属の三宅寛典(32)だ。日本ランキングにも入っていない無名ボクサー。実力差は大きいが、「かませ犬は百も承知。自分の持っているものをすべてぶつけたい」と玉砕覚悟で挑む。
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まさかの対戦オファーだった。コロナの影響で亀田陣営の対戦相手探しが難航。海外の選手を呼べず、国内も活動していない選手が多く、次々と断りが入る中、三宅がリストアップされた。「コロナじゃなかったら、僕クラスの選手が元世界王者と対戦できることなんてありえなかった。すごく光栄なこと。チャンスをもらえて感謝しかない」。迷うことなく対戦を受諾した。
実績は天と地ほどの差がある。「亀田3兄弟」の三男で元世界2階級王者でもある和毅に対して、三宅は戦績9勝(1KO)10敗2分け。日本ランキングは2年前にバンタム級17位に入ったのが最高で、現在はノーランカー。勝ち目はほぼないといっても過言ではない。しかし「サプライズやラッキーは簡単には起きないと思うけど、勝負事はやってみないと何が起こるかわからない。勝つつもりでいく」と力を込めた。
そう語るのには理由がある。昨年8月、U-15全国大会5連覇、アマ通算95戦80勝15敗の実績を引っ提げてプロ転向した松本圭佑(21)=大橋=のデビュー戦の相手を務めた。ジュニアの頃から“ミライモンスター”として注目され、将来は世界王者も嘱望される松本の圧勝が予想される中、三宅は初回に右ストレートをクリーンヒット。松本にとってはボクシング人生初となるダウンを奪った。
2回以降は逆襲を浴びてレフェリーストップで4回TKO負けを喫したが、どれだけパンチを浴びせられても倒れなかった。会場の後楽園ホールは三宅の健闘をたたえる大きな拍手に包まれた。「負ければ引退も考えていたが、まだ自分にもボクサーとしての可能性があると感じた」と現役続行を決意。それから7カ月後、今回の一戦が実現した。
調整は順調に進んでいる。元東洋太平洋王者の稲田千賢トレーナー(43)のアドバイスを受けながら練習に励んでおり、亀田の動画を見ながら対策も練っている。「僕は稲田さんが立ててくれたプランを忠実に遂行するだけ」と迷いはない。
ボクシングの世界では「かませ犬」という言葉がよく使われる。闘犬用語から転じたもので、「強い相手の引き立て役として対戦する弱い相手」のことを指す。三宅自身、世間から「かませ犬」と見られていることは百も承知。その上で「そう思ってもらって全然構わない。逆にそれが自分のモチベーションになる。そう言っている人たちを結果でびっくりさせたい」と闘志をかき立てた。
大阪でも緊急事態宣言が発令される見通しとなり、試合の開催を危ぶむ声も聞かれるが、三宅ができることは試合に向けてベストコンディションに持っていくことだけ。「持っているものをすべてぶつけたい」。全国のボクシングファンの注目も力に変え、一世一代の大舞台に上がる。
(デイリースポーツ・工藤直樹)
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三宅は昨年2月、広島県安芸郡府中町にエステサロンと整体の複合店「Prier(プリエ)」をオープンした。ボクシングで整体を受ける機会が増え、またエステにも興味があったことから「人に喜んでもらえる仕事をしたい」と開業を決意。ボクシングの傍ら整体とエステの勉強に励み、資格も取得した。
現在も仕事とボクシングを両立。毎朝7キロのロードワークを行い、午前10時から夕方まで勤務した後、店をスタッフに任せて広島市内のジムに足を運ぶ。両耳にはピアスが光る。「お客さんは僕がプロボクサーなのを知ると、みなさん驚かれます。試合に勝てばキャンペーンも実施したいので頑張りたい」。店をPRする絶好のチャンスでもある。
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◆三宅寛典(みやけ・ひろのり)1988年8月21日生まれ。大竹市出身。小学3年から高校までサッカーに打ち込む。宮島工業高校卒業後は建築関係の仕事などに従事。22歳の時にダイエット目的でボクシングジムに通い始め、その魅力にはまる。24歳の時にプロテストに合格し、15年に「西部地区新人王」を獲得した。身長166センチ。階級はバンタム級。独身。