ドネアに心寄せた辰吉丈一郎 人としての大きさを学んだよ、テレビで子供たちに見せたかった

 今なお現役。ジムでの練習で汗を流した辰吉丈一郎(撮影・石井剣太郎)
 93年7月、ラバナレスを破ってWBC世界バンタム級王座に輝いた辰吉
 伝統の“緑のベルト”は29年の時を越えて井上尚が手にした
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 ボクシングのバンタム級世界3団体統一王者の井上尚弥(29)=大橋=と5階級制覇王者、ノニト・ドネア(39)=フィリピン=の一戦。元WBCバンタム級王者、辰吉丈一郎(52)が心を寄せたのは、39歳で敵地に乗り込んだドネアの思いと、垣間見せた人間性だった。

  ◇  ◇

 オンライン配信に映り込んだ、試合後のドネアのある行動は、辰吉の目にも止まった。

 「リングを降りて控室に帰って行くところで、ドネアが転んだスタッフに思わず駆け寄った。条件反射やったけど、普段からああいう人なんやと思う。異国であれだけの試合で全力尽くして息も絶え絶えの状況で。改めてボクサーとして、人としての大きさを、オレも学んだよ」

 今も現役としてジムワークを続ける辰吉。39歳で若き強豪との戦いを望み、敵地へ乗り込んだドネアには深い共感がある。

 「フィリピンからベルトを持ってきて守るために戦った。でも、獲られた以上は敬意を持って渡す。ボクサーくらいやで、笑顔で渡せるなんて。誰からも故意にやれと言われたわけじゃない。自然にやれるのは、殴り合ったからかもしれんね」

 自身も3選手と再戦。ラバナレス、サラゴサ、ウィラポンと死闘を繰り広げた。

 「そらドネアは悔しいと思うよ。何を笑ろうてんと言う人もおると思う。でも、一生懸命やった人間にしかわからん。死ぬんかと思うような減量があって、立ってられへんくらいの練習をして、それで2ラウンドで倒れた。結果は時間やない。ドネアが弱くなったんか、尚弥君が異常に強くなったんか、そのどっちでもない。どっちもが勝つために練習して、その結果があの内容やった。勝った尚弥君も敬意を表していた。だからこそテレビでやるべきやったなあ、試合後まで。子供たちに見せたい。再放送でもやったらいいのに」

 井上尚が新たに手にしたWBCバンタム級王座は、辰吉、長谷川穂積、山中慎介と名選手が受け継いだ伝統の“緑のベルト”。そして令和のモンスターは、次のステージへと進む。

 「(WBCのベルトが)日本にあるのはええな。自分にも大事なものを尚弥君が持ってるのはありがたい。次は4つのベルト(4団体統一)やろうね。日本人が誰もできんかったこと。その期待は尚弥君もわかってる。彼はやるやろう。本人もそう思ってるよ」

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