谷村さん作詞作曲「チャンピオン」モデル、カシアス内藤氏「俺が生き残っちゃって」 余命宣告で見舞受け
谷村新司さんが作詞作曲したアリスの代表曲「チャンピオン」のモデルとなった元プロボクシング東洋ミドル級チャンピオン、カシアス内藤氏(74)が16日、会長として後進の指導に当たる横浜市内のE&Jカシアス・ボクシングジムで取材に応じ、思い出を語った。
かつて咽頭がんで余命宣告を受けながら復活した内藤氏。訃報はテレビで知り、入院していることも知らなかったといい「(自身が)余命1カ月なんて言われてる時に、(谷村さんが)面会に来てくれた。その後も『君オッケーだよ、大丈夫だよ』って言ってくれた。本来なら俺が先に死ぬんだよ。まさかね俺が生き残っちゃって。俺からしてみたらちょっと逆転しちゃったかな。今回のことはとてもショック」と驚きを隠せなかった。
谷村さんは、内藤さんのプロ復帰やその半生描いたノンフィクション「一瞬の夏」の作家・沢木耕太郎氏の紹介で78年に内藤さんと知り合った。老いた王者が若き挑戦者に敗れ去るという、日本のポップソングでは異色の歌詞を激しく歌い上げた「チャンピオン」は、アリス唯一のオリコン週間シングルチャート1位を獲得した大ヒット曲となった。
当初は自分がモデルだと知らなかった。「試合で負けた後、カラオケを沢木さんとか谷村さんと行って『これ良い歌だから好きなんですよ』って言ったら『それ君の歌だよ』って。それまではガンガン歌ってたんだよ。それっきり歌わないからね。恥ずかしくなっちゃって(笑)」と照れながら思い出を振り返り、「今でもあの曲はやっぱり俺を頑張らせてくれるよね。奮い立たしてくれるよね。自分が吸い込まれるんじゃないか、ワクワクしてついて行っちゃいそうな。選手の気持ちがよく分かってるんだなって思う。だからヒットしたんだよ。ボクサーが皆分かったんだよ。俺も『そうだよな』って思ったもん」と谷村さんの観察力、洞察力に舌を巻きながら「今だったら歌っていいかもしれない。しっかり歌ってもう一度はやらさなきゃいけない」と鎮魂歌として哀悼の意をささげるとした。
「すごく優しくしてくれたし、心配性って思うくらい気を使ってくれる。至れり尽くせりってああいう人のことを言うんだろうね。相手には気を使わせない。すごくフレンドリー。壁がないからいつ会っても気まずさがない。その気遣いは嫌だとは思わない。ありがたいと思ってる」と偲び、「ありがとうしかない。ただ一つだけ、ありがとう」と谷村さんに感謝した。