黒田に“奇跡”起きず…健闘も判定負け
「WBA世界フライ級タイトルマッチ」(27日、とどろきアリーナ)
挑戦者・黒田雅之(26)=川崎新田=は、王者フアンカルロス・レベコ(29)=アルゼンチン=に0‐3の判定で敗れ、王座奪取に失敗した。レベコは正規王者に昇格後で初、暫定王者時代と合わせて3度目の防衛。体格で優る黒田は距離を取って手数を繰り出し健闘したが、スピードとテクニックで勝るレベコに押し切られた。
とどろきの奇跡はならなかった。“川崎から世界へ”をスローガンに、川崎市内のジムが地元で主催した初の世界戦。黒田はJ1川崎のサポーターなど地元ファンの大きな声援を受けてリングに立ったが、2階級制覇王者の壁は厚かった。「現時点での実力。世界王者の器じゃなかった」と、サバサバとした表情で振り返った。
意識したのは先手を取ること。10センチ勝る身長差を生かし、自分の距離から積極的に手数を出した。5回には左でぐらつかせる場面もあったが、スピードとテクニックで勝り、上下に打ち分ける左の連打など、多彩なパンチを繰り出すレベコを最後まで崩せなかった。
黒田にとって10年目の大舞台だった。小、中学時代は剣道に打ち込み、二段の腕前。高校1年のころ、小柄のため体格差に悩んでいたところ、テレビで当時のWBC世界Sフライ級王者・徳山昌守が細い体で一撃KOしたのを見た。「これならできる」と、ボクシングを始め、川崎新田ジムに入門した。
同じ年に父・佳彦さんが47歳の若さで亡くなった。黒田はファミリーレストランのアルバイトでジム会費を稼いだ。この日は父の親友が遺影を持参。黒田も「絶対に倒れられない」との思いで、後面に父の名をプリントしたトランクスを着用したが、天国に勝利を届けることはできなかった。
ジムの新田渉世会長は「今の力は出せたと思う。まだまだ伸びる可能性はある」と、まな弟子の健闘をたたえ、今後については「レベコは強い王者だった。これからもチャンスはあると思う」と、世界を狙っていく方針を示した。川崎の星の挑戦はまだ終わらない。