機械ゴール判定導入?どうするJリーグ
シュートがゴールに入ったか、入っていないか‐という運命の瞬間を、機械で判定するとサッカーはどう変わる?実際、国際サッカー連盟(FIFA)ではゴール判定システムを導入し、今年6月のコンフェデレーションズ・カップ(ブラジル)でも使用した。しかし、人の目で判定するのがサッカーの面白さでもある。日本サッカー協会はどう対応していくのか、2006年ドイツW杯3位決定戦で主審を担当した経験を持つ上川徹審判委員長(50)に話を聞いた。
まずは単刀直入に、日本サッカー協会がゴールの判定に機械を使うつもりなのかどうかを聞いてみた。どうですか?上川さん!
上川「実は…。方針はまだ決まっていません」
ずっこけてしまいそうな答えだったが、これには事情がある。機械によるゴールの判定(正式にはゴールライン・テクノロジー=GLT)を用いる際には、主審、2人の副審、第4の審判の間でリアルタイムに会話ができる状態にしなければならない。
機械が出した判定を即時に4人が共有する必要があるためで、そのためには無線機を使う必要があるが、各スタジアムで無線機を用いるには電波法に基づく許可を得なければならない。
上川「携帯電話を使ったりしてみたんですけど反応が遅かった。使ってもいい周波数の取得をしています」
国立競技場のように、すでに無線機を用いた判定のテストを行ったスタジアムもあるが、Jリーグに導入するとなれば、全スタジアムでの導入が必要になる。
これを前提として、上川委員長は「レフェリー側からすれば助かるというのはある」と個人的な意見を述べてくれた。例えば、ロングシュートがクロスバーに当たり、真下に跳ね返った場合。「10年の南アフリカW杯でありました。イングランド‐ドイツですね。GLTがあれば、こうした難しい判定の手助けになる。6月のコンフェデ杯でも「ゴールコントロール4D」というシステムが導入された。
しかし、費用対効果が問題になるという。上川委員長によると、「把握しているのは初期投資が1500万円」で、ランニングコストが加わる。前出のイングランド‐ドイツのケースは44年ぶりの大誤審と話題になったが、仮に44年に1度のケースのために1スタジアムにつき1500万円以上をかけるのならば、ほかにお金の使い道があるのでは、という考え方も出てくる。
上川委員長は実体験から「得点に直結する判定は、オフサイドに関連するものが大半」と語る。実際、今季のJリーグでも5月11日の浦和‐鹿島で、浦和のFW興梠のゴールを後日になって「オフサイドだった」と誤審を認める事態も起きた。オフサイドの判定は機械では難しく、「副審を何人も置くわけにはいかない」(上川委員長)と審判個人の技術を磨くしかない。
GLTの導入が先か、審判の人材確保や技量向上が先か。このジャッジが一番難しいかもしれない。