乱闘寸前の小笠原「流れ引き寄せるパフォーマンスの一つ」
「サッカー天皇杯・決勝、鹿島2-1川崎」(1日、吹田サッカースタジアム)
鹿島が延長の末、川崎を下して6大会ぶり5度目の優勝を飾り、史上最多を更新する国内主要タイトル19冠目を獲得した。1-1の延長前半4分、途中出場のMFファブリシオ(26)が決勝点を挙げた。初の決勝進出で悲願のタイトルを目指した川崎は準優勝に終わった。大阪で天皇杯決勝が開催されるのは、古河電工(現J2千葉)が優勝した第40回大会(昭和35年)以来56大会ぶり。
百戦錬磨の計算し尽くされた“演出”だった。両チーム無得点で迎えた前半19分、中盤でドリブルを仕掛けた鹿島MF小笠原満男(37)がファウルで倒された。転がったボールを川崎MF中村憲剛(36)が蹴り返すと小笠原を直撃。激高し、ボールを抱えたまま中村に詰め寄ろうとする小笠原を止めようと、両軍が入り乱れ一触即発の事態となった。
ピッチ上には張り詰めた空気が漂ったが、当の本人である小笠原は冷静さを失っていなかった。「それもパフォーマンスの一つ。怒っていたわけではなく、そういう細かいところにこだわって流れを引き寄せる、戦うんだというのが大事なこと」。川崎に何度も押し込まれ、劣勢に立たされていた序盤の空気を一変させるため、主将はあえて怒りを前面に出したと説明した。
再開直後には競り合いの局面で鹿島DF西大伍(29)の足が川崎MF登里亨平(26)の頭部に当たり、再び乱闘寸前となった。だが、小笠原は「駆け引きだよね」と混乱を横目にクイックリスタートを試みるなど勝負に徹し続けた。
1-1の後半43分にはMFファブリシオと交代でピッチを退いた。「最後までピッチに立てるように」と話す小笠原にとって悔しさがないわけではないが、出場機会を失っていたファブリシオの決勝点には「腐らずに一生懸命努力してきて今日ゴール決めた。本当に見本のような選手。出られなくても一生懸命やるのが大事だということを、彼が身をもって示してくれた」。期限付き移籍の契約が満了となり、この試合を最後にチームを離れる同僚に敬意を込めて労いの言葉を贈った。
「この経験は絶対に財産になる。これを生かしてさらに強いチームになっていきたい」。19冠の鹿島にあって、小笠原は16個目のタイトルを手にした。37歳のベテランに息づく勝者のDNAこそが、鹿島の勝負強さを体現している。